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26 はじめて
初めて行為を行った夜は、互いに酒が入っていた。
酒が入って箍(たが)が外れ凶暴化した俺の欲望は、呆気無くも貴方に向かった。
戸惑う貴方を誘って篭絡して煽ってケダモノにして──そして、喰った。
朝、目線を合わせぬ貴方に対し、昨夜の行為は夢であったのだと。
俺達は酔い潰れて互いに寝てしまったのだと。
無言のまま、視線だけでそう強要したのは俺。
「あ〜あ、アンタまた酔い潰れちまったのかよ。仕方無ェなァ近藤さんは。」
「あ、あァ…そうだな、あ〜参ったモンだ。」
「…朝餉(あさげ)の用意も出来てるぜ。服、着替えて早く来な。」
「…トシ、あの、よ……。」
「あ〜〜っと、皆待ってるぜ。早く、来な。……俺ァ先行ってるからよ。」
「……判った。」
腰の疼きを堪えながら、俺は今日も平静を装って貴方の傍に居る。
27 2度目
二度目は酒の勢いだった、とはもう云えまい。
言い訳など最早出来ぬ、其処にはただ情炎だけがあった。
理性と欲望の狭間で揺れ動く貴方に情欲を煽られ、貴方の雄を自ずから口に含み、舌で愛した。
己に此の様な事が出来るとは思わなかった。自分の醜悪さに吐き気を覚えながらも反面、酷く興奮、した。
口腔に満ちる苦味。慣れぬ其の臭み。だが貴方のモノだから耐えられる。
貴方の熱を咥えたまま貴方を見上げる。ゆるり漂う視線で見詰める。
褒める様に宥める様に、梳かれた髪に背筋が震えた。感じて、しまった。
俺は何処ぞの売女か端女か。そう思っても、止められぬ。
──……此のままでは溺れる。
陸に上がった魚の如く見えぬ空気に囚われて、貴方に囚われて。
あァ…溺れそうだ。
戻れるだろうか、戻れるのだろうか、元の俺に。
戻らなければ、戻らなければならぬ、昼の顔に。
理性と自制の鎧に身を固めた、慾を見せぬ男の姿に。
28 繰り返し
繰り返される慾に塗れた性行為。
獣欲だとも云えぬ此の生産性の無い性交で、俺達は一体何を生み出そうとしているのか。
貴方の空気が変わった。俺に劣情を感じている気配が時に、不意に漂う。
俺を求める其の匂いには、眩暈を起こしそうな程の陶酔感を喚起され。
──其れと同時に、僅かばかりの失望と落胆の感傷をも、覚える。
疚しさの塊を飲み込んで、自責の念に駆られて苦悩する貴方。
俺の所為で悩む貴方。俺の所為で穢れてしまった貴方。其の姿は俺には甘美で。
けれど──矢張り哀しい。
後悔先に立たず、とは此の事か。
だがもう、後には引けぬ。
「…こんな莫迦げた事で悩むなんざ、俺だけで充分だったのに。」
呟き嘆く心とは裏腹に、躯は悦びに震えている。
29 何度目
何時の間にやら貴方の躯にしっくりと馴染んだ俺の、躯。
貴方の為に愛撫を施し貴方の為に足を開く。そして貴方を受け入れる。
誰よりも知り尽くした貴方の躯。其れと同じ様に俺の躯の事も知って欲しい。
ほら、ネトリと絡み付くだろう?…気持ち良い、だろう?
誰よりもイイ…んだろう?
色んな意味で手放せない?其れこそが俺の本望。俺の希望。俺の宿願。
だが、泪が溢れるのは何故だ。
快楽からか、もう戻れぬ昔日を想ってか。
──あァ……だがもう其の様な事、如何でも、良い。
──アンタに、最上の悦楽を与えてやるよ。
誰よりも近く、誰よりも遠くなった、アンタに。
30 サイゴ
愚かな行為の終結を切り出したのは貴方だった。
俺は何も聞かずに承諾した。そして呆気無くも元の日常に戻った。
罪の意識に耐え切れなくなったのか?其れとも俺の躯に飽きたのか?
其れは判らぬ。だが、今でも時に感じる貴方の視線からは──慾の匂いがする。
誘えば貴方はまた陥落するだろう。俺から求めれば直ぐに再びあの日々が。
其れはそうだ、俺程貴方を愛してやれる者等他には居ない。
あんなに愛してやっただろう?──あんなに心身共に隅々迄。
其の記憶と熱を忘れられる筈が無い。手放せる筈が無い。
そう、忘れられない様にもう放せぬ様に、仕向けたのだから。
胸裡で独り、嗤う。
再度、何時崩れるか判らぬ此の均衡。
さァ──二人で危うい橋を渡り合おうか。