「枳(からたち)」……SSブログサイト。(銀魂中心。他雑多。只今ヘタリアとかBASARAとかも。)

04 故郷を恋しく思う時 


 奴の話を聞くのは嫌いではない。
何時も何時も余計な言葉ばかりを発する男、会話を交わしていても苛立つばかりの相手だが。だが、奴の話を聞く事自体は、嫌いではないのだ。傍に居て唯、其の声を聞く。存外低く甘く響くその声音。──そんな時間は、嫌いでは、ない。奴には死んでも云う気は無いが。

 奴は時折、静かに遠くを眺めている時がある。薄い虹彩、赤みがかったその瞳を遠くへと向けている。そんな奴の横顔は普段とは異なり過ぎていて他人の様にも思え、話し掛けるのを戸惑う事もある。何処かを眺めている奴の横貌をじっと見詰めていたら、ふいに振り向いてきて「何怖い貌して見てんの。」と笑われた事もある。
 自分は、銀時の中の未知なる部分を知りたいとでも思っているのだろうか。だが其れは、仕事柄からの詮索欲ではなく、知らない貌の部分に嫉妬を感じた訳でもない。唯の純粋な好奇心からであろう。唯、其れだけなのだろう。
 土方は、銀時の事なぞ知りはしない。身体は繋げてはいても、其れ以外の事は、何も。

 己の事を語りたがらない奴が唯の一度だけ、昔の話をした事がある。話の流れは覚えていない。話の詳細な部分迄もは覚えていない。子供の頃の他愛ない昔話だ。仲間と野山をかけ、海で魚を捕った、そんな類の些細な話だ。西の国の生まれだ、と、そう云っていた。
「……海が近かったのか?」
合いの手代わりにそう問い掛ければ、奴は笑いながら言葉を紡いだ。
──そうだなァ。山も海も近い、自然に囲まれた美しい場所だったよ。度の付く田舎だったけど……嗚呼…思えば、あそこが俺の故郷とも云えるのだろうか。──と。
奴はそう呟くと、僅かばかりに微笑んだ。其の微笑に、己は莫迦みたいに動揺した。こんな貌は、奴のこんな貌は…見慣れぬ分、心臓に悪い。
「西の生まれの割りには、訛りもなんもねェな。寧ろ生粋の江戸っ子みてェじゃねーか。」
奴の言葉は、東の生まれだと云われても何ら遜色も無い。己の中の動揺を隠す為に茶化す言葉尻で云ってのけた。すると奴は暫し押し黙った後にポツリ、と話した。
──…実際生まれた場所が何処だかは覚えてないんだけどな、一番長く育った場所が京よりも西だって事で。…小せェ頃…俺、唖、だったんだよ。まぁ色々あって長い間、誰とも会話らしい事もしてなかったもんで、マトモに言葉、話せなくてな。俺を拾ってくれた人が、言葉教えてくれたんだわ。…其れでかな?
まー今となってはお前少し黙っとけ、と迄云われる俺ですが。口から先に生まれた男でゴメンナサイねほんとに。──
 何時もながらにおどける奴に対して、己は、そうか、と相槌を打つしか出来なかった。

 其れ以上の奴の生い立ちなど知らない。興味が無い、とは云えないが、己から聞く気も無い。だが、此の男には身寄りが無いのだろう、という程度は薄らとは理解した。其の様な者など今の御時世珍しくも無い事だ。真選組内でも身寄り一つ無い人間は多い。よしんば身寄りがあったとしても、連絡の一つもしていない者も多いが。──己の様に。

 奴の故郷語りは後にも先にも其れっ切りだった。己の故郷の事も聞いてくるかと思ったが、其れはされなかった。……恐らく、気を使われたのだろう。腹が立つ事だが。何時も無神経な男だが、意外や奴は気を使う男だ、という事を己は理解している。遠回しの気の使い方であるので判り難いが。ほとほと、損をする男だと思う。だがそんな男の配慮には正直助かっているのも事実だ。苦しい時に空気の様に傍に居て酸素を供給してくれるのに、気付けば礼を云う前に居なくなっている。そんな、男、なのだろう。
──故郷の事を思い返すと、胸がチリリ、と焼け焦げる。未だに、癒えぬ傷が在る。憧憬の念を覆い隠す位の痛みが、未だ存在する。いっそ激しく慟哭出来ていれば少しはすっきり出来るだろうに。だが其の様な真似を出来る性格でも性別でも、立場でも無い。そして嘆く権利も無い。焦燥感に酷似した感情は未だ胸の内で燻っているままだ。我ながら、女々しい。

 ……ふと思った。奴にも、此の様な感情を持つ過去が在るのだろうか?膿んだままの癒えぬ傷を抱えている様な、ジクジクと痛む様な思い出が、奴にも在るのだろうか?
幼少の頃、言葉を覚える環境にすら居なかったという此の男。親が死んだか捨てられたか、売られたか。其れならば、人との別れは辛かろうて。人と出会う事すら恐ろしいだろうて。捨てられる事が恐ろしいだろうて。人一倍、恐れても間違いではなかろう。
攘夷戦争にも参加していた、との記録も有る此の男。其れならば、出会いも別れも多かっただろう。死など日常に在ったのではないだろうか。
其の全てを、奴は昇華出来ているのだろうか。乗り越えているのだろうか。
また何処かへと視線を飛ばす奴の横貌を見ながら、思った。
──奴に傷が在るのならば、其の傷口に触れてみたい、と。

 触れてみる事によって、癒してやりたいのか、傷つけてしまいたいのか迄は判らぬ。が、「知りたい。」そう、思った。だが、奴の傷口を覗こうとするならば、己も曝け出す覚悟でなければフェアではない。奴にだけ曝け出せなどと、其の様な事させる訳も無い。そして己は、未だ奴に、己の深淵部分迄をも見せる気は無い。奴に弱い部分を突付かれれば、恐らくきっと。…己は無様に崩れる。其の様な情けない姿を見せる気は、無い。奴も同様だろう。
なので結局は素知らぬ振りをし合うのだ、己達は。今まで通りに此れからも。

 嗚呼、何て或る意味判り易い意地っ張り同士。
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