「枳(からたち)」……SSブログサイト。(銀魂中心。他雑多。只今ヘタリアとかBASARAとかも。)

陽炎 


 雷光が周囲に青白く瞬く。
己の手が雷電の魔法を放った余韻に痺れているのも厭わず、今度は剣を振り上げる。

何も考えず、進め。…ただ、進め。


 最近思う事がある。
『勇者』とは一体何なのだろう。──『天空の勇者』。天女と地上の若者との間に生まれし者。皆が期待する者の呼称。『勇気ある者』の呼称。魔王を倒し、世界を救うという者の呼称。
 それは、どうやら己の呼称であるらしい。「どうやら」とは、実際今になっても実感もクソも沸いていないからだ。勇者しか装備出来ぬとされる『天空の武具』を装備し、魔王と恐れられていたエスタークを倒し、更には第二のエスターク、エスタークの再来、と言われたデスピサロを更正(更正、と言っていいのだろうか)させた今になっても、僕は己の存在と能力に疑問を持っている。だが今更こういう事を言うと、マーニャさんかアリーナ辺りにまた
「アンタ(君)は自分に自信がなさ過ぎ!」
と怒鳴られるのがオチだから、誰にも言ってはいないが。

 己の存在と能力に疑問を持っているのには理由がある。僕だって何も理由も無くグルグルしているんじゃない。僕は剣での直接戦闘も出来、魔法も多少なりとも使用出来る。しかも『勇者』だけ(らしい)の呪文、といったものも使える。端から見れば万能戦士、魔法剣士、といったところか。何にでも長けている、これが『勇者』というものらしい。
 だが実際は、力ではアリーナやライアンさんといった生粋の戦士に敵わず、魔力ではマーニャさんやブライさん、ミネアさんやクリフトさんといった魔法使いには敵わない。良く言えば万能戦士だが、本当を言うとただの中途半端ヤロウだ。トルネコさんは………戦闘には不向きだけど、けれどあの人には鑑定眼という誰にも負けない特技がある。
 己には、何か誇れるものがあるだろうか。これだけは誰にも負けない、というものがあるだろうか。

 魔力と力は均衡するものである、と昔魔法の師匠が仰っていた。一方を鍛えれば一方が衰えるもの。だから、己の様に両方に長けているのは普通とてつもなく凄い事なのだと教えられた。
 魔法の中でも、相反する精霊同士の魔法は使えない。例えば氷結系と火炎系を同時に扱う事は出来ないのだ。マーニャさんは物凄い魔法使いだが、それでも氷結系の魔法は扱う事が出来ない。使えるとしてもヒャド止まりだろう。ブライさんにしても同じだ。あの人は火炎系・爆炎系の魔法を使う事が出来ない。使わない、ではなくて使えないのだ。
 癒しの生命の精霊に至っては人を傷付ける事自体を厭うから、だからクリフトさんやミネアさんは攻撃魔法を使えない。(クリフトさんの「死の魔法」の力の源流は生命の精霊であるが)だから、ミネアさんが真空系の魔法を使えるのは凄い事なのだ。きっとあの人は風の精霊との相性が非常に高かったんだろう。でも、その代わりに回復魔法を極める事は出来ない。…難しいものだと思う。
 僕は、一通りの魔法を使う事が出来る。攻撃魔法も、回復魔法も。最初にマーニャさんとミネアさんに手解きを受けて基本的な魔法を習得していった。それはそれで役にはたったけど、けれど、やはり生粋の魔法使いには敵わなかった。
 僕は躍起になった。どうにかして自分だけの誇れるモノが欲しかった。古代から伝わる魔法書を読んで勉強をした。でも、「鋼鉄の魔法」だけは失敗だったと思う。 ……身体が鉄の塊になって一体どうするんだ。皆は「この魔法を使えるものは少ない」等言っていたが、誰もこの魔法を使わないのは本当は役に立たないからではないのか?その時少し疑心暗鬼になったのを覚えている。
 そんな中、漸く見付けた魔法。「雷電の魔法」。幾多の精霊の力を借りる超高等レベルの魔法であり現在は使える者は居ないという。驚くべき事にこの魔法は己に一番適していた。僕は漸く唯一のモノに出会えた気がして内心感動した。
 …だが、後々知った事だが、この「雷電の魔法」も、『勇者』のみが扱える魔法として定義付けられているものだった。
 竜神に、伝説に、世の理に導かれ、天の意思により目前に敷かれた道の上を、知らず知らずの内に歩いていた己を省みて失笑を禁じえない。回復系の最大魔法すら扱える様になった己は、もしかしなくても我侭なのだ。無いもの強請りをする子供、それが僕だ。他の人からすると高望みをし過ぎなのだろう。これ以上何を望むというんだ。ベホマズンには回復魔法の使い手であるクリフトさんにすら驚かれたじゃないか。教えて欲しい、羨ましい、と何度も乞われたじゃないか。それなのに、僕はこれ以上何を望むんだ。

………僕は、何を、望んでいる?

 『勇者』。ソレが普遍に唯一の人物の事を指すのだ、という事に疑問を抱いている事自体おかしいのだろうか?だって、どう考えたっておかしいだろう?ソレが『勇気ある者』の呼称であるならば、戦士として、魔法使いとして僧侶として、そして武道家として日々戦っている皆が皆全て『勇者』なんじゃないか?冒険者として戦っている人々以外にも、日々一生懸命に生活している人であってもだ。この、決して住み易いとは言い難い世の中で精一杯生きている全ての者も皆『勇者』なのではないか、と僕は思う。……言い過ぎだろうか。
 言い過ぎかどうかはわからないが、でもどうやら僕の考えは著しく外れている様だ。僕がどうほざいていても、『勇者』は己一人の呼称であり、僕が『勇者』である事は、僕が物心付く以前より伝承として語られている。──竜神が作った僕の人生、か。僕は己の意思すら自由に出来ないらしい。

 『勇者』。ソレは例えるならば……僕唯一の職業の様なものなのだろう。生まれた時から職業が決まっているとは、己に選択の余地無し。ならば、世界を救う、という「仕事」を終えたら『勇者』という職業もまた廃業か。今はまだ最後の黒幕が残っているから廃業には至ってはいないが、もし、『勇者』という職業が要らない世の中になればそれはつまり、僕の存在自体も不用になる、という事だ。それは世界にとっては喜ばしい未来なんだろうけれど。
 ………今から、新しい技術を身に付けておくべきだろうか。僕は、戦うしか能が無いから。
 最近、こんな風な馬鹿な事ばかり考えている。心に余裕が出来たのだろうか?…いや、多分違う。
 僕は、本当に見つめなくてはいけない現実から目を逸らしているだけなのだろう。

 『勇者』
 僕はこの言葉の重みにずっと耐えている。でも逃げ出す事も出来ない。そして忘れ去られる事にも怯えている臆病者だ。自分を作り続け偽り続け、仲間を欺き続けている卑怯者だ。他人から良く見られる方法を――『勇者』として恥じる事のない己を――僕は旅の最中身に付けていったのだ。

 千年に一度咲くという奇跡の花、「世界樹の花」を手に入れた時、これで世界を救う、という事よりも何よりも真っ直ぐ先に、己の村のことを――シンシアの事を想った。これで彼女を生き返らせる事が出来るのか。己の身代わりとして無残に殺された彼女を呼び戻すことが出来るのか。彼女を惨殺したデスピサロなどの為に使いたくない。何故あんな奴の為に何故あんな奴の為にそうだ何故あんな奴の為にわざわざ!
 デスピサロの恋人のロザリーさんには何の恨みも無い。寧ろシンシアに良く似た彼女が、人間の手で殺されたと知った時はやるせなく憤りを覚えた。…が、それ以上に、同情によって己の中のデスピサロへの恨みが揺らぐのを恐れ、もう考えまいと思考を閉ざした。
 父・母・村の人々・そして…シンシア、シンシアシンシアシンシア。何故彼女が殺されねばならない。これが、これが天の理だというのか!
それならば、僕は天をも恨む。 …そんな僕は『勇者』失格なのだろうか。
 だが今、己の目前に広がった新たなる道。天の理を打ち破るかもしれない新しい道筋。あぁ、いっそ己の我欲の為に動けるのならば!…そう叫び続ける己の本能を力ずくで抑えつけ、理性が偽善に満ちた最良の策を告げる。世界を救う為の最良の。
「…ロザリーさんをピサロに逢わせてあげよう。そうすればきっと彼は……。」

 人の目から一番良く見られる自分――『勇者』として一点の曇りも無い、清廉で潔白な、世界の事を憂いその為に戦う己――を演じる。表面上にはもう躊躇も無く演じ続けられる己を、ある意味尊敬する。これはもう演技というよりも、己の地だっただろうかと錯覚する程だ。これこそ「嘘から出た真」か。……いや、少し違うか?どうでも良い事だが。
 己は自らの手で、天の理から逃れる可能性を手折った。あんなに切望していたというのに。
 …あぁ、僕が望んでいたのはこれだったのか。今ストンと理解が出来た。
 自分で自分の選んだ道を歩んでいきたい、事前に決められた道筋ではない、己の意思での道筋を。これが僕の望んだ事。

 …最高に間抜けだ。
 もはや、どれもが天の裁量の様に思える。…運命には、元から人の意思など通用しない、のかもしれない。

 シンシアに良く似た彼女にぎこちなくも微笑み掛けられる度に、己の中の醜い感情が暴れ出すのを感じる。
――カノジョガシンシアダッタラドンナニカボクハ――
 その感情を、無理矢理黙らせる。
 元の美しい青年の姿に戻ったピサロと不意に目が合う度に、忘れようと努めても収まらない感情が沸き起こる。
――アナタサエイナケレバボクハボクハシンシアハ――
 その感情を、不自然に目を逸らし掌に爪を立てる事で押し殺す。

 もう何も考えるな。ただ決められた道を歩め。


 最後の敵を倒した後、僕は仲間を送り届けながら天空の武具も元あった国々へ返していった。僕にはもう必要の無いものだったからだ。僕を『勇者』として定義付けるものはもう要らない。そして世界にももう必要が無い。
 世界は、変わらずだった。悪の元凶を倒したとしてもそう易々と変わるものでは無い。これから少しずつ少しずつ変わっていくのだろう。魔族の力が強大であった世界から、均衡の取れた世に――そうあって欲しい。僕らのやった事が無駄では無い事を実感したい。
 ピサロはこれからも魔族の王として君臨するのだろう。神から世のバランスを保つように命じられたのが僕ならば、彼は魔の頂点として天と拮抗しながらも生き続けていく。魔だからといって破壊を望む悪ばかりではない、それはこの旅の間に学んだ事だ。彼の事は許す気にはならない。一生なるわけはない。が、彼はもう破壊を望む事は無い。……ならばもういい。もう逢う事もないだろうから。僕は、時の流れに記憶と憎しみが浚われゆくのを待とう。

 毒の沼地が広がる生まれ故郷に独り帰り着いた時、僕は真に孤独で、だが果てしなく自由だった。
 もう己を縛るものは何も無い。天の理ですらもう僕を縛れない。やるべき事はやったのだ、僕の使命は終わったのだ。僕は、これから己の望むまま生きればいい。事前に決められた道筋ではない、己の意思での道筋を歩んでいけばいい。 …なのに、嬉しい気持ちは起こらない。あぁ、やっぱり無いもの強請りだったんだな、目の前にぶら下がっていると思えばその気が失せるなんて。誰かに縋りたいと思うなんて。小さな広場の中央、昔花畑であった地面に座りこみ小さく笑った。
 空虚だった。僕にはもう何も無い。重すぎる『勇者』の名ですら、既にもうこんなにも懐かしい。

 シンシア、ただいま。僕はやり遂げたよ。…誉めてよ。凄く強くなったんだ。凄い魔法も覚えたよ。仲間も出来たよ。でも、全てを成し遂げたら、全てがもう必要で無くなったんだよ。僕の事ももう必要無いみたいだ。
 …笑っちゃうな、全部投げ捨てて打ちこんだのに、結局はまた独りに戻ってしまった。
 シンシア、僕はこれからどうしようか。…どうすればいい?今まではっきりと見えていた道筋が、もう見えないんだ。そうしたら、僕は突然迷子になってしまった。…どうすればいい?……わからないんだ。…………わからないんだ。

あぁ…何だか泣きそうだ。

 …その時、僕の声が天に届いたのだろうか。目の前の空間が唐突に揺らめき、徐々に徐々に何かの像を結んだ。僕は、目を見開いて地面を掻いてただそれを眺めていた。長い時間をかけて結ばれた像は不安定に揺らめいていたが、その中に僕は懐かしい微笑みを見付けた。これは、幻か?僕の想いが生んだ幻覚か?そう思いつつも恐る恐る、だが力を込めてソレを抱きしめた。
 ソレは、フワフワと頼りなげな感触であったので、あぁやはりと僕は思う。奇跡は何度も起こり得ないのだ。起こしてはならない、のだろう。だってそうでなければ、他の殺された人々に申し訳無い。何千、何万という人々が殺されたと思う?同じ仲間であったマーニャさんとミネアさんの父親だって殺されたのだから。僕だけだなんて、そんな図々しい。何時も特別扱いは嫌だと願っていただろう。こんな事にだけ「特別」を願える筈が無い。
 世界樹の花は、だから奇跡の花と呼ばれるのだ。だがあの花は次はもう1000年後にしか咲かない。奇跡は、もう起こり得ない。
 これは、天の竜神からのギリギリの、最大限の褒美なのだろう。それでも、嬉しい。声上げて叫び出したい程に。何もかも振り捨てて縋り付きたい程に。
 声は、声は伝わるのだろうか。あぁ駄目だ、今口を開くと泣き声にしかならなそうだ。
 目の前で像は、哀しげに微笑む。後時間はどれ程残されているのか。僕は全部喪ったよ、でも君が居ればいいんだ、だから哀しい顔をしないで、もう君だけが。君だけが居れば何も要らない――何て陳腐な言葉かと思うかもしれないけど、僕は本当に他に何も無いからだからだから僕も一緒に――

 絶望の中の一握りの耀くものに縋っていたかの如く無様な僕に、その時二つ目の褒美が出迎えた。皆が唐突に現れた。別れて、もう逢う事も無い、と思っていた仲間が。
 僕の腕の中で揺らめく像に一瞬驚いた様に見えた皆だが、変わらない笑顔で迎えてくれた。彼女の像を抱き締めながら、僕も無理矢理の笑顔を作った。だが。

「…無理するんじゃないよ。」
「………え?」
「もう無理する事はないよ。だってアンタ、ずっとずーっと無理してきたんだからさ。アンタのしてきた下手な演技くらい皆判ってたよ。……馬鹿だね。もう、いいんだよ。」
「………。」
「子供なら子供らしく、時には我侭言っても良かったんだよ、泣いても良かったんだよ。それが聞き入れられるかはともかく、溜まるばっかじゃ辛いだろ…… って……あぁーー!泣くんじゃないよったく、ガキみたいに!」
「姉さん、言ってる事が矛盾してるわ。」
「うっさいなぁ!」

 ……僕は、どうして仲間を信じ切れなかったんだろう。今になってやっと、漸く、だ。本当に、本当に僕は大馬鹿だ。こんなにも自分を気遣ってくれていた仲間の温かさにも気付かず、孤独だと?大馬鹿ヤロウ。
 けれど、皆の幸せを願った気持ちは真実だから。その中に己の幸せを切望する気持ちがあったとしても、許してくれるだろう?
 今更だけど、これからでも築きあえるだろうか。臆病な己が遠ざけた人々と、卑怯な己が欺き続けた世界を、もう一度歩めるだろうか。今からでも遅くはないだろうか。
 そう言うと、皆はまた馬鹿だ、と笑う。そう、僕は馬鹿だから本当に遠回りをしてきたから。これからも馬鹿な事をし続けて何も無い平坦な所で躓いて蹲って一人で下を向いて有りもしない傷を舐めて痂を剥いでまた幻の血を流して勝手に一人で泣いているかもしれないけれど、その時はまた馬鹿だ、と言って笑って欲しい、怒って欲しい。

 そして……せめて、せめてもう少しだけ。
 儚げに蜃気楼の如く揺らめく彼女の手に、もう一度そっと触れる。後、もう少しだけでもいい、この時が続けばと。この瞬間を胸に抱いてこれから僕は、未だ見ぬ道を歩いていけるだろう。この手に残ったものは沢山あった。僕が気付いていないだけだった。それをかき集めて両手に抱きながらこれからは歩いていこう。…歩いていけるから。
だから、大丈夫だよ……シンシア。


 陽炎の彼女が微笑う。今までの様な哀しげな微笑ではなく、美しく華やかに。
 それは、まるで天女の様だった。
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