「枳(からたち)」……SSブログサイト。(銀魂中心。他雑多。只今ヘタリアとかBASARAとかも。)

水の檻 


 外は雨・雨・雨。景色が滲んで溶けていくほどの土砂降りの雨。二日前から降り続く雨は、今だ止む気配すら見せない。それは柔らかく冷たい。

水の檻の様に。


 窓辺で溜息をつく巨漢が居た。 ここは都会のビジネスホテルのある一室。 破格の安さの宿泊費のせいか空調の効きもすこぶる悪く、肌をねばつく汗が滑り落ちるほどである。逃亡生活を続ける二人には、贅沢をする余裕もないのはわかっているのだが、都会の残暑はあまりにも厳しいものがあった。

「まいったな…これじゃ身動き一つ取れやしねぇ…。しかも…。」

 今度は深く息を吐くと、マキシマは部屋の中を振り返りベッドの上の人物に視線を合わせる。 そしてゆっくりと枕元に近づくと、その人物の額に大きな手の平を当て熱を測るような仕草をした。そこにはひそやかな寝息をたてて眠る男がいた。
いや、「男」というにはまだ顔立ちや雰囲気には幼さを感じさせるものがあり、「少年」というには彼はあまりにも多くのことを経験しすぎていた。 だが、今ここで無防備に眠る彼の顔はまるで幼子のように無邪気にも見え、マキシマを安心させる。

 彼の名はK’。名と言うのだろうか。ただのコードネームとでも言う方が正しいのかもしれない。 実際、彼には戸籍上の名前など最初から無いのだろうから。
褐色の滑らかな肌に銀糸の髪、深いアイスブルーの瞳を持つという稀有な存在である。K'は感情をほとんど表さない。言葉数も必要最低限のものだ。育った環境がそうさせたか。暖かい家庭に生まれ育ったとすれば、彼も穏やかな笑みを浮かべる事の出来る青年となったのだろうか。

「不憫な」

 だが、そうして生じた同情の欠片を、マキシマは首を小さく振る事でかき消した。彼はこういった種類の感情を向けられる事に敏感だ。憐れむ事は、彼の根底に潜む劣等感を更に煽る事となる。
 そしてマキシマ自身も、「同情」とは高みの立場から見る事が出来る者が持つ優越思想の一つでもある事を知っていた。例えそれが無意識の産物、好意の現れだとしても。

 額に触れながらそっと眠っている彼を見下ろす。マキシマはK’の感情の欠片を読み取るのが好きだった。今は眠っている為に見えない、その瞳の奥に潜むもの。

「…熱は、下がったみたいだな。」

安堵の表情を浮かべ、K’の乱れた銀の髪を優しく梳いてやる。そしててきぱきと濡れタオルを用意し、手馴れた仕草で汗で湿った身体を拭いてやった。
 K’の、格闘をするには細すぎる身体のいたるところに無数に残る微かな傷跡。それは数々の実験や戦闘訓練によって出来たものであった。K’はその体格から見て取れるようにあまり身体が丈夫な方でもなく、少しでも無理をすると今回のように発熱することなど日常茶飯事である。熱を出したフラフラの身体で実験に赴くK’の姿を、過去何度も見た記憶があった。
 マキシマは軽く眉を顰めると痛ましそうにK’を見つめ、一瞬それらの傷跡に指先で触れ…何度目かもうわからぬ溜息をつき、そして新しい服を着せてやった。その間熟睡しきっているのか、はたまた疲れきっているのか、K’は一度も目を覚まさなかった。

 今は眠りの中の彼。目覚めればまた過酷な現実が待っている。
このまま穏やかにあれと思い…だが己の本心は。

「早く元気になってくれ…お前の悪態が聞けないと寂しいぜ…。」

いっそこのまま抱き締めて。

「早く戻ってきてくれ…お前は、今の俺の存在理由の全てなんだからな…。」

いっそこのまま閉じ込めて。


外は雨・雨・雨。景色が滲んで溶けていくほどの土砂降りの雨。


どろどろとした想い。
澱の如く漂う。
その感情の名は一体。


澱で濁った

水の檻に囚われし者達。
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月に迷い 星に導かれ | HOME | 書いてるSSについてのコメント集。更新: 2010/09/09

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