「枳(からたち)」……SSブログサイト。(銀魂中心。他雑多。只今ヘタリアとかBASARAとかも。)

君に手向ける涙 


 鈍色の空から雨が降る。冷たく静謐に。赤い液体で彩られた大地を癒す様に。
今は唯、静かに。


 湿った岩壁に凭れ、七原秋也は熱っぽい息を吐いた。頭上を覆った枝葉の合間からは、絶え間なくぽたぽたと雨粒が落ちていく。茫洋とした眼差しで落ちてくる水滴を数えつつ、秋也は強烈な悪寒を感じていた。桐山和雄に撃たれた傷が酷く痛み、そして熱を持ってきている。ただでさえ重症の身だ。普通ならばベッドに縛りつけられていてもおかしくはない。その身体には、五月の未だ冷たい雨は毒だった。
 震える身体を己の両腕で抱き締め、その悪寒を押し留めようとするが、無駄な努力に終わりそうだ。もう一度熱っぽい息を吐き出し、気だるげに瞳を閉じる。その時、優しい声が聞こえた。

「七原。…平気か。」

 その声の発信源にゆるりと重たい頭を向け、無理矢理笑顔を作る。
「あぁ、大丈夫だ。…典子さんは大丈夫なのか?」
「寝ている、平気だ。…それよりも、今はお前だ。」
「俺?俺は平気だぞ?」
「嘘を付け。」

 その声と共に伸ばされる腕。川田の大きな手の平が秋也の額に押し当てられ、額、頬、首筋、順々に触れてくる。そうして確かめた後、顰め面をして川田は言った。
「…やっぱ熱があるじゃねぇか。何故黙ってる。」
秋也は、その僅かに責めてくるような川田の口調に罰悪げになりつつも、順々に押し当てられた己よりも体温の低い川田の分厚い手の平には心地良さを感じた。
「ゴメン。でも、今はそれどころじゃないだろ。それに平気だから。」
「…バカヤロウ、痩せ我慢は止めとけ。」
川田がデイパックの中から何やら薬を取り出し、水と共に「飲め。」と秋也に渡す。
水ならば雨のせいもあり余裕がある。秋也は大人しくそれを飲み下した。
「七原、お前も少し寝ておけ。」
「あぁ…サンキュ。」

 そう言いつつも、己が眠れないのはわかっていた。
 疲れている。
己が酷く疲れているのは自覚している。それにこの傷だ。少しでも寝て体力を回復せねばならない事ぐらい、秋也にも分かっていた。
だが。
肉体はどうであれ、精神は休息を良しとはしなかった。ドロドロとしたものが身の内にある。プログラムに入ってから何処か狂ってしまった己の感情が、はけ口を求めてさ迷っているのを感じた。どちらにせよ、肉体にも精神にも休息は必要な筈なのだが。それなのに、奇妙なまでに落ち付いている己自身を、秋也は不思議だと、思った。

「なぁ…川田……何でなんだろうな。」
プログラム開始以来、何度も何度も己に対し問い掛け続けていた言葉。「何故」という疑問。それを、その時秋也は無意識の内に川田に投げかけていた。

「何で…何で俺達なんだ?何で、何で殺し合わなくちゃならない?なぁ、何でなんだ?なぁ、川田!」
徐々に激昂してくる秋也を、川田は唯静かに見詰めていた。

 秋也は「何故」という言葉をキッカケに、まるで一つの箍が外れたように今まで押さえていた感情をぶつけていた。熱のせいもあったかもしれないが、己でも止める事が出来なくなっていた。いや…そうか、落ち付いていたんじゃかったんだ…爆発する一歩手前、だったんだ。
そうそれは、例えるならばグラスに満たされた水の如く。表面張力の僅かな均衡で保たれている水面。ほんの少し…触れるだけで零れ落ちる水。それと同じだ。零れ落ちた水と同じく、溢れ出した感情。頭の片隅の、酷く冷めた部分でそう思い、秋也は心の中では笑っていた。そして、慟哭いていた。

「なぁ、川田…何で…………何で、死ななくちゃいけないんだ!何で俺達が!!!何故!!??」
「みんな、みんなイイ奴ばっかだった!みんな、みんな旅行楽しみにしてたんだぜ?
慶時なんか、前の日に寝ないではしゃいで…みんな、みんなみんな…!」
「七原、落ち付け。…典子サンが起きちまう。」
川田のその静かな声に、秋也ははっとして口を噤む。だが、再び顔を歪めて俯き、小さな聞き取れないほどの声で呟きだした。それは、クラスメイトの名前だった。順々に、死んだ者の名前を苦しげに呟く。そうして順々に思い出し、きつく瞳を閉じた。

 川田はその秋也の仕草を痛ましげに見つつも、安堵の念も感じていた。大丈夫、大丈夫だ。数瞬前の過去を振り返る事が出来、そして死者を悼む事が出来るならば、まだ大丈夫。現実を見据えて生き残らなければいけないこの時、目を逸らしている場合ではない。だから、コイツは大丈夫だ。今までは振り返る事すら出来なかった。思い出して泣く間も惜しい、という気持ちはあるが、今だけはいいじゃないか。
川田はそう思った。

 だが…その時何故か、何処かに違和感を覚えたのも事実だった。
七原が順々に呼んでいった名前。誰か、抜けてはいなかったか。クラスに入って間も無い己だから、他に何人か抜けていても気付かなかったかもしれないが。だが、アイツが抜けているのはおかしい。己でもそれに気付いた程なのだから。
いつも、いつも仲良さげに。だが時にはケンカもし。良い意味でも悪い意味でもクラスで際立って目立っていた二人。七原自身、プログラム中にも何度も何度もソイツの名前を呼んでいたじゃないか。

 川田の中で警鐘が鳴る。
「七原…。」
まだ俯き呟いている秋也の肩に手を置き、顔を覗きこんだ。
「七原…。」
そうして、ほんの少し潤んだ瞳を、訝しげに向けてくる秋也に対し問い掛けた。

「三村は、どうした。」

川田の問いに対し、惚けた顔を向ける秋也。川田の中の警鐘が更に強く鳴り響く。
「三村、だ。分かっているか?三村は、どうしたんだ。」
「三村……?」
「そうだ。……三村も、死んだ。なのに、何故呼んでやらない?忘れるわけはないだろ?」

「…死んだ…三村が…死んだ…死んだ…のか…?」
「そうだ、『死んだ』んだ。わかるか?アイツは『死んだ』。知っているだろう?」

わからない、とでも言うように頭を振る秋也。
「いや、お前は知っているはずだ。認めたく無いだけだな。……でも、な。」
頭を振り続ける秋也に対し、一言一言刻み付けるように。

「………アイツを、忘れてやるなよ。否定して、やるな。」

「………あ………。」
刹那、秋也の瞳から涙が溢れていた。

 三村と七原が、そういう…ある種、特別な感情を持ちあっていたのは薄々感じ取れていた。傍目からは三村が一方的に想っていたように見えたが。だが、実際はそうではなかったようだ。

「七原……。」
川田は、泣く秋也を前に言葉を失った。

「死んだ…三村……あぁ………。」

 秋也の錯乱は、だが予想していたよりも小さなモノだった。ただ静かに、涙を流し、三村の名前を呼んでいた。

川田は、秋也の濡れた頬に指を這わせて、後は唯静かに、唯強く、秋也を抱き締めてやった。

「三村……。」


今は、君に手向ける華も無く。唯、唯この涙を、送り続けよう。
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