「枳(からたち)」……SSブログサイト。(銀魂中心。他雑多。只今ヘタリアとかBASARAとかも。)

13 戦友 


 此れは真選組の発足時の話。

 真選組という形を作ったのは、松平であり近藤であるが、内部を整えていったのは土方であった。其の編成は、其れまでこの国において主とされていた編成とは大きく異なり、小隊制を取り入れた画期的な組織編成だったという。松平の下に局長、近藤。其の補佐に副長、土方。其の下に幹部として数名の隊長職、そして監察方。勘定方も土方の直下に付く。監察方は、副長の下で内外の情報収集及び諜報活動をするのが主な役割であり、隊内の風紀の監視もする。

 此処で問題となったのが、人材の不足であった。
 武州から志を同じくし出てきたものは、僅かに十数名。他は全て、江戸にて募った隊士達だ。実力も未知数の新参者に、よもやいきなり隊長職を預ける訳にもいくまい。最初の初期配置にて、勢力図も大体出来てしまうものだ。真選組を一枚岩の存在へと固めたい土方は、重要職にはなるべくならば武州から共に出てきた者を据えたかった。
 土方は悩んでいた。近藤、松平とも何度も話し合い、大体の人員配置は決定はした。だが、一人、配置を悩む人間が居る。
 ──沖田 総悟。
 同郷の信頼の置ける人間(と、思いたい)。剣の腕は滅法立つ。心身共に強靭。
此れだけならば何も問題の無い人材と云えるのだが、一つだけ問題が有る。其れは──十代半ばに漸く差し掛かるか差し掛からないか、といった年齢。未だ幼げとも云える容姿。……一見するに、余りにも、頼りが無い。荒くれ共を率いるには明らかに不向きだ。
流石に此れでは、未だ使い物にはならない。土方はそう判断していた。

 夕刻。土方に宛がわれた部屋にて、土方は近藤と共に人員配置の最終案を詰めていた。もう月末近い。来月からは本格的な実働が始まる予定だ。季節も直に春が来る。
「やっぱり、総悟に隊長格は未だ早い。松平のとっつぁんも流石に渋ってたしな。」
「だな…。」
近藤にこう云われ、土方もあっさりと頷き、一覧表の中の沖田の名前の横に小さく×、を書いた。
「総悟を見た第一声が『おーい、どこのお嬢ちゃんだコリャァ。』だもんなァ。」
松平の物真似をする近藤。なかなかに上手い其の物真似に吹き出し掛けながら土方も云う。
「あー、そう云われて総悟の奴、じじぃの脛に蹴り入れたんだよな。」
「あはは、あったあった。ってかトシ、じじぃ呼ばわりはメッ!」
「とっつぁん呼ばわりとそう大して変わんねーだろが。」
「変わるの!」
「はいはい。」
軽く受け流しつつも、土方は笑った。

だが。
「近藤さん。」
「んー?」
「この話、アンタが総悟に云ってくれよな。」
「あーーー……。やっぱ俺?」
「俺から話せば、血の雨が降るぞ。」
「あーー参ったなァ、アイツ絶対怒るよなァ。」
近藤が珍しく、本気で困った様な面をする。
「俺が局長でお前が副長だってェのに、アイツが平だなんてなァ…。」
ハァ、と溜息を吐く近藤。土方は其の様を見て、苦笑する。
「王子様の御機嫌を損ねないように、頑張ってくれや。」
「善処しますよ、えぇ。」
「頼む。」
「でも俺の前じゃ良しとしても…確実にお前には突っかかるぞ、アイツ。」
近藤も沖田の性格は判りきっている。土方は肩を竦めた。
「慣れてるよ。」
「嫌な慣れだなァ。」
「全くだ。」

 近藤が去っていた後の部屋。紙の上に書かれた沖田の名を何とはなしに眺めながら、土方は物思いに耽った。
──世の中ってェのは、理不尽なもんだよな。なァ…総悟。
 江戸に出てきて、其れを実感する事が増えた。今の日本を形成している組織の、ほんの末端へと座する真選組。此れ迄聞いた事はあっても見た事は無かった世界。上を支配するは、一握りの人間。末端の己達はただの駒。己達が生きるも死ぬも、お上のご機嫌次第。
 人は生まれながらにして平等にして対等だとは、一体何処の莫迦が云ったのだろうか。己達が地位を掴もうと足掻いている上で、虫けらが蠢いているものよ、と笑う人間達が居るのだ。
己の自由にはまま為らぬ世の中よ。沖田にとっても。そして土方にとっても。
「ほんと、何もかも…理不尽な世の中だ。」
土方は、沖田の名を指でなぞりながら独り、ごちた。


 近藤と話して暫くしてからだろうか。机の上の灰皿に煙草が数本捻じ込まれる位の間。唐突に部屋の障子が開いた。誰何の声を掛ける間も無い。だがそんな傍若無人な相手の態度にも、土方は机に向かったまま片眉を上げただけだった。
「何だ。」
──総悟。
土方は振り返る事もせずに云った。沖田は、土方に対し頻繁にこの様な振る舞いをする。土方も慣れたものだ。
 沖田は、障子を手荒に閉めると、土方の背後へと立った。そして土方を見下ろしたまま、やおら声を発した。
「……ほんと、なーんでアンタが副長なんでェ…。」
「仕方無いだろ、他に適任者が居ねェ。」
「俺だって出来らァ。」
「さてね。」
土方が副長職へと就いてから何度も繰り返された問答だ。だが続く言葉は今日は違った。
「………何で、俺は、平隊士なんで。」
近藤から聞いたのだろう。そして、其の足で土方の元へと赴いたのだろう。搾り出す様な低い声音で沖田は呟いた。だが、土方は受け流す。
「…不満か。」
「不満に決まってらァ。」
沖田は常日頃は声すらも無表情と言われる癖に、今は其の声音にもあからさまな不満の色を浮かばせている。
「俺ァ、アンタよりも強いのに。俺より弱い土方さんが、副長で、俺が、何で…。」
土方は怒る事も過剰に反応する事も無く、流す。
「我慢しろ。」
「……イヤでェ。」
「ガキ。」
「………。」
云い返してくるかと思ったが。意外な事に沖田は押し黙った。土方は背後の気配を探る。──沖田は如何やら、本気で拗ねているようだった。そして小声で呟く。
「どーせ………。」

 土方の耳には続く言葉は届かなかったが。だが、拗ねている大体の理由は掴めている。判りきっている理由だ。土方は溜息を付きながら、ガシガシと己の頭部を掻く。
──沖田が、周囲に対して、特に己に対して、ある種の劣等感を抱いている事にはずっと前から気付いているのだ。奴は死んでも云わないだろうし、認めないだろうが。
土方は頭を掻いた後、声を発した。
「……テメェが使えねェっつー訳じゃ無い。……数年待てや。」
──そう。沖田は未だ、余りにも若過ぎる。
沖田を隊長職へ就ける事を戸惑う理由は、唯、其れだけだ。そう、其れさえ無ければ──。

 沖田は無言のままであった。だが、唐突に、荒々しく土方の部屋を出て行った。土方は眼で追う事もしなかったが。沖田の気配が消えた後、小さく吐息を付く。江戸に来てから覚えた煙草を取り出し、銜える。
「……悔しいだろうよ。」
 沖田は常に大人に囲まれ、大人に負けぬ様に気丈に頑張ってきた。彼の者の剣は誰よりも強く、誰よりも早い。最近はもう、土方でも三本の内一本取れれば良いか如何かなのだ。近藤ですら、互角かもしれぬ。其れ程の神童であった奴なのに。
 たった数年。そう、たった数年だ。数年、年若であるだけで今、一人前だとは認められないとは。剣で劣る(と沖田は思っているに決まっている)土方に、常に上に立たれ続けられるのを甘んじなくてはいけないとは。対等で居たい、と思っている筈の者に、年齢差だけで上に立たれるのを甘んじて受けなくてはならないとは。
 人一倍自尊心の強い沖田には大層屈辱だろう。土方に対する風当たりが日に日に強くなっていくのも道理だ。
 判っている。土方には、沖田の鬱憤も苛立ちも手に取るように判るのだ。──だが。己も、今の場所を譲る気は無い。そして沖田を甘やかす気も無い。──奴自身も望んではいないだろうが。
「…悪ィな、総悟。」
面と向かっては到底云わぬ言葉を、土方は煙と共に虚空へと吐き出した。


 其の日の夜。土方は月を眺めながら、自室へと向かう廊下を歩いていた。廊下の先にはもう副長室と局長室しか無い。其の廊下の縁側に腰掛けている人物が居た。土方は無言のまま、其の傍へと立つ。何かしらの抗議の意でも込めているのだろうか、其処に居たのは沖田であった。
 沖田は、土方を一瞥はしたが、だが興味が失せたかの様にまた庭を眺める。土方は着流し姿の己の襟首をガリガリと掻く。そして、徐にしゃがみ込んだ。
「総悟。」
声を掛ける。だが無反応。短気な土方にしては珍しく、粘り強く話し掛ける。
「総悟。」
「何でぇ…。」
漸く沖田が反応するが。酷く面倒臭そうだ。
「土方さんなんか呼んでないですぜ。」
「生憎此処は部屋への通り道でな。目に入ったんだよ。」
「なら早く行って下せェ。」
そう云われながらも、土方は尚其のまましゃがみ込んでいた。そしてもう一度名前を呼んだ。
「総悟。」
「……。」
「お前は何で副長になりてーんだ。」
「…………アンタ、判ってて聞いてるよな。」
「まァな。」
「だったら…。」
だが沖田の言葉を土方は半ばで遮った。そして強めの口調で云う。
「だったら。…そういう理由でなりてェだけなら、テメェにこの場所を譲る気は毛頭、無ェ。」
「……。」
「俺ァ、テメェが俺の思っている通りの仕事をこなしてくれんなら、テメェが如何様な地位に立とうと文句は無い。何なら、テメェの下に就く事すら甘んじて受けるぜ?」
「……。」
「──でも今はダメだ。」
「……。」
「俺に対する唯の対抗意識だけで勤められるもんでもねーんだよ。ガキの遊びじゃねーんだ。其処んとこ、判れ。」
「…っえらっそうな…!!!」
沖田も判っているだろう。判っている、筈だ。だが理解はしていてももどかしいのだろう。常に無く苛立たしげに叫んだ。

「アンタなんか、アンタなんかっぽっと出の癖に!何で近藤さんは…っ」
「……。」
「何で近藤さんはアンタなんかをっ…一番……っ!!」
「…生憎テメェよりも数年長生きしてるもんでな。その分役に立つんじゃねーのか。」
ク…っと土方は皮肉げに笑う。土方の其の横貌を沖田は眺めた。そして貌を歪めた。
「俺ァ、アンタが大嫌いだ。」
「知ってる。」
「アンタが知っている以上に大嫌いだ。」
「そりゃどうも。」
だが大嫌いと云いながらも、立ち去ろうとはせず。沖田は俯く。土方は押し黙ったまま。

 暫しの時が流れた。やおら、土方が声を発する。
「俺が何で今の地位に固執するか、判るか。」
「……。」
「別に偉そうにしたい訳じゃねーんだよ。」
「…どうだか。」
ハッと嘲笑う沖田。だが土方は気にも留めずに更に続ける。
「今の地位が、俺には必要であり便利だから、唯其れだけだ。」
「……。」
「俺はあの人の、組の防波堤なんだよ。」
「……?」
意味が掴めない、という顔を向けてくる沖田。土方は沖田の方を向き、一瞬だけ笑う。
「面倒事は全て俺が受け止める。」
「……。」
「毎日起こる様々な波をあの人に受けさせる訳にもいくめェ?俺が取捨選択し、必要と判断したもののみ、あの人に渡す。其の方が効率も良いんだよ。組織の命令系統は一元化されているのが望ましいんだ。」
「…そうするとアンタに権力が集中し過ぎな気もしやすが?」
「俺が真選組を思うが侭にするのではって心配か?」
「さて。」
「俺ァそんなに信用ねェか?」
「全く。」
「テメェ死ねや。」
土方はそう云うが、そう気にした風情でも無い。続けて発する。
「確かに全ての実権を握るのは俺になるが、万が一の事があった場合の責任も全て、俺が負う。」
「……。」
「何かあっても俺が腹切れば済むだけで、局長の名誉…つまり、隊の名誉に傷が付く事は無い。
 ま、俺が居なくなった後はお前の天下だろ。隊長でも副長でも何でもやりゃァ良い。

 ──……お前になら、近藤さんを任せられる。」

 腹を切る、だの物騒な言葉を簡単に云ってのける土方。そして己が死した後の事も話す土方に、沖田は微かに驚いた様であった。そして、ゆっくりと言葉を挟んだ。
「…信頼や信用なんざ、元よりアンタに対しては糞っ垂れた感情だと思ってますぜ。」
「……。」
「………けど。……アンタの。…アンタの、近藤さんに対する気持ちだけは、信じられる。」
「……フン。」
「唯其れだけの理由ですぜ。アンタが俺の上に立ってんのを赦すのも、アンタがあの人の隣に立つ事を赦してんのも。」
「……。」
「裏切りでもしたら、近藤さんの非になる事をアンタが行いでもしたら、直ぐにでもアンタをぶった斬りやすぜ。…土方さん。」
「…上等だよ。」
土方と沖田の間柄なぞ、結局はこうなのだ。互いが互いを目障りだと思いながらも、性根は似た者同士、認め合っては、いる。

 沖田は、土方の其の言葉を耳に入れて鼻で笑った。そして緩やかに立ち上がった。軽く背伸びをした後、土方へ背を向け、自室の方へと歩き出す。其のまま立ち去るかに思えたが、背中越しに土方へと声を掛けてきた。普段通りの気の無い声音だ。
「あーそれと。」
土方はしゃがんだまま、沖田の方へと視線を飛ばした。
「……?」
「アンタの堤防、決壊しそうな時は、する前に云って下さいよ。」
「ア?」
土方には、沖田の云っている意味が直ぐには理解出来なかった。だが沖田は続けた。ボソリと、本当に小さな声でだが。
「…アンタ独りが組、支えてる訳じゃねェんだ。……俺にも支えさせろ莫迦土方。」
そう云い放つと、土方の応えを聞く気も無いのか、さっさと立ち去った。

土方は暫しの間呆然とした心地で居たが、やがて俯く。床板の模様を眺めながら苦笑の形に唇を歪める。
「……ったく。ガキが偉そうに……。」
毒付きながらも、思う。
──近藤の隣に立つのは己だ。隣を護るのは己だ。背を護るのは己だ。
其れは誰にも譲る気は無い場所だ。例え沖田と雖も。
だが。
己と反対側の隣に立つのは。近藤の背を共に護るのは。
………奴である、と土方は思っている。
そして、近藤の背を見詰める、そんな己の隣に立っているのは、
──沖田だ。そうも、思っている。
今も昔も、そして此れからも。俺達の仲は変わらないだろう。

 暫く床板の節の数を数えていた土方だったが、何かを決意し、立ち上がった。
「……あー…結局俺も甘いって事かね。」
そう小さく呟き、もう一度苦笑した。


 翌日。土方は近藤の元へ赴き、話を切り出した。
「近藤さん、話が有る。」

「隊の構成要員についてなんだが再考を──」


 ──…一番隊隊長、沖田総悟。
年齢的にも年若である彼の隊長職への抜擢には、不安や不満の声も多数あったが、数日後、正式に辞令が通達された。
其の背景に、真選組副長の強い後押しがあった事を知る者は──少ない。
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