「枳(からたち)」……SSブログサイト。(銀魂中心。他雑多。只今ヘタリアとかBASARAとかも。)

18 果ての二十日 


「頑固な野郎だな。」
 狭い部屋で、呆れ返ったかの様な声が響いた。不吉な色の衣装を身に纏った黒い男は、銜えていた煙草を右指で摘み取ると大きく息を吐く。其の煙草の煙で周囲が白く煙った。

 暗く狭い室内。だが床は砂利だ。部屋というよりは牢獄にも似た風情の、何所か薄ら寒い部屋である。饐えた(すえた)匂いが一面に立ち込めている。部屋の中央では、縄に縛られた男が転がっていた。
 白い煙を吐きながら黒い男は、転がっている男を冷たい瞳で見下ろす。鴉の様に頭の先から足先迄全身真っ黒な其の姿は、まるで葬列に参加する者かの如く、陰鬱だ。此の男を街で見掛ければ眼を伏せたくなるだろうか。穢れたモノを見たかの如く、貌を背けてしまうだろうか。それとも──薄暗く陰惨な有様に惹かれて引き寄せられてしまうだろうか。──人間の暗い欲望を掻き立てる、黒い男はそんな姿だった。

 転がる男は拷問でも受けたのか、酷い有様だった。髷は千切れざんばらとなり、露出した部分あらゆる箇所が赤黒く腫れている。だが男は笑っていた。狂ったかの様に。殴りたければ殴れと。殺したければ殺せと。貴様等なぞに話す事は何も無い、と。苦痛と屈辱に耐えながらも男は云い放った。爪を剥がれ血涙を流しても、男は耐えた。此れ程迄に強情な者は昨今珍しい。

 黒い男は──土方は、隊士を全て追い出し、一人残った。暫し煙草を燻らせた後、投げ捨てると靴底で踏み潰した。床の砂利が微かな音を立てた。そして、まるで世間話をしているかの様な口調で話し出した。
「…今日は二十日か。もうすぐクリスマスに晦日に正月だな、オイ。」
「……。」
此の状況下で此の様な話をしても相手が乗ってくる訳も無い。だが土方は気にせず話を続ける。
「なぁ、こういう話、知ってっか。」
そう云いながら、転がる男の身体に絡まっている荒縄を手に取り、キツク引っ張る。男が苦しげに呻いた。
「……『果ての二十日』。旧暦でだが、十二月二十日の事を昔はそう云ったんだと。」
苦しげな声を背景に土方は話す。
「ハテノハツカは外へ出てはいけない──此の日は『忌み日』とされていた。」
手に取っていた荒縄を滑車に架ける。強く縛り付けた。
「昔、京の粟田口の刑場では、此の日に其の年の最後の罪人達の首を刎ねたという。其の為、忌み日となったそうだ。」
倒れている男を無理矢理に吊り上げる。万歳をした姿勢で、足先が付くか否か、の時点でわざと止めた。力が入りきらぬ辛い姿勢だ。男は貌を歪めている。
「特に女子は外へ出ないように諭されたという。 何故だか判るか?」
土方は笑い掛けながら話す。嫌な笑みだ。
「罪人は処刑される前に最期に一つだけ、願いを聞いてもらうことが出来たのさ。死の恐怖に怯える罪人に女が眼を付けられてもしてみろ。嫁に来い、だのSEXさせろ、だの云われたら…そら困るよなぁ…?死に逝く者を慰める為にむざむざ女が犠牲になる必要もあるめェ。」
何が可笑しいのか。クックック、と低く笑いながら話す。
「だから『果ての二十日』だけは外を出るな、と云われてたんだとよ。今の世じゃ考えられねェ話だな。

…今の世を見てみろよ。浮かれ狂った男女が闊歩する此の世の中を。ハテノハツカ?あんだ其れは、ハツカネズミですか、ってか?」
面白くも無い冗句を云った後、其処で声を落とした。

「そもそもの忌み日とは、外出も仕事なぞもせずに忌み慎む日とされ、精進潔斎やら神祭りを行って静かに過ごす日、なんだとよ。…だが、ンな、昔の影なぞ、今は唯の一欠けらもありゃしねェ。

………良い事なのか悪い事なのか。時代は変わるもんだ。時勢は変わる。変わって、其れに付いていけぬ者は、取り残される。流れから置いていかれる。時代から捨て置かれゆく。」
「……。」
「そういう時代なんだよ。」
「……。」
「…だが俺達が護ってんのは、そんな世の中だ。」
「……。」
「テメェらなんざ、もう御呼びじゃねェんだよ。」

「……狗畜生めが…!!」
其れまで黙り込んでいた男が、憎しみと嘲りを込めてそう叫んだ。土方はだが、酷薄に笑いながら云う。
「テメェは果ての二十日の罪人、という訳でも無いが。
──優しいお狗様が最期にテメェの願い、聞いてやるよ。」
男は長い間強く睨み付けてきていた。土方は真正面から其の目線を受け止めた。やがて後、男はガクリと項垂れると声を絞り出した。
「こ…」
「ぁ?」
「ころ、せ…もう殺せ…。」

其の言葉を聞いても眉根一つ動かさず。土方は唯唇だけで笑う。
「あぁ、其の願い、叶えよう。…ちゃんと殺してやるよ。」
煙草を取り出し銜え、火を点す。そして唇を歪ませながら嗤い。

「……総て吐いたら、だが、な。」

そう残酷に宣告する。そして男の、血と汗と泥と垢の浮いた首筋に、吸っていた煙草を押し付けた。一瞬赤く燃え、だが直ぐに火は消えた。嫌な匂いが漂う中。
「あぁ…アァァアアアアア……!!」
男は身を震わせ眼を見開き、小さな声で絶望と苦痛を叫んだ。
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