「枳(からたち)」……SSブログサイト。(銀魂中心。他雑多。只今ヘタリアとかBASARAとかも。)

14 告白 


 接待というものは何時の時代であろうとも憂鬱なものだ。己がされる側ならばまだしも、する側ともなれば何処に楽しみを見出せば良いのだろうか。上の者に媚び諂い、機嫌を取る。酒を勧め勧められ。呑めずとも呑まなくてはならない。酒に弱い者には尚更辛い仕事だ。新年明け早々の酒宴に、末席に座する土方の憂鬱は高まった。

 莫迦だ、莫迦だ莫迦だ莫迦だ莫迦だ。莫迦ばかりだ。
土方は胸中で罵倒する。
性根の腐った無能な連中が国の中枢を食い潰してのうのうと生きている。貪欲に搾取し、利欲を啜り肥大した醜い奴等。
そんな奴等に媚び諂わねばならぬ己に吐き気を催す。そんな奴等に頭を垂れ、保護されている己が腹立たしい。そんな奴等に、笑顔を向けている己が、醜い。
 ──否。本当は、己がそう振舞う分には全く構わないのだ。其れが己の仕事であり立場であり役目である、と土方は理解している。己が尻尾を振りさえすれば如何にかなるというのならば、草履の裏でも何でも舐めてやる。土方はそう思っている。思ってはいるのだが。現実は甘くない。

 勧められた苦い酒を一気に嚥下した。喉と胃が焼ける。酒を抜く為、そろそろ一回吐かねばならない、と土方は薄らと思考した。酒宴は今がたけなわだ。ゆらゆらと揺れる視界の隅で、松平の姿と、笑う近藤が見えた。土方は眉根を寄せた。
 失礼、と声を発し席を立とうとした時、君、と目前の男が声を掛けてきた。
「名は何だったかな。」
「は。」
土方は慌てて男へと向き直った。
「真選組副長の土方、と申します。」
「あぁあぁ、ひじかたくんか。そうだったそうだった。年寄は如何でも良い事は直ぐ忘れて困る。」
「御謙遜を。」
張り付いた笑顔のまま、土方は答える。此の男に名を聞かれるのは本日此れで何度目になろうか。本気で忘却しているのか、または幼稚な嫌がらせにしか過ぎない。
 ニヤニヤとした嫌な笑みを浮かべている男だ。幕府中枢の相当な高官だが、真選組に対して良い印象を持っている男では無い。元より真選組の評判は最悪ではあるが。通常ならば、己の様な卑しい身分の者がおいそれと近付ける相手では無いのだが、真選組は警察庁長官の松平からの温情が厚く、立場や活動結果の割にはかなりの優遇をされている。其の為、今回の様な上層部との酒宴にもまま呼ばれる。其の分嫉みや妬みの対象にもなってしまっているのだが。
 食していた何かでテラテラと汚れた男の唇が、不快だ。其の唇が動く。
「        」
「        」
何かを聞かれ、何かを答えた。微かに笑みを浮かべながら酒を注ぐ。出来れば女に酌されたいものだが、と云われわたくしめでは御不満でしょうが御容赦を、なぞと答えた気もするが最早内容など如何でも良い。
意味のなさない会話。実の無い会話。仕事に関わる話ならば未だ良いが、下世話な話ばかり。

 莫迦だ、莫迦だ莫迦だ莫迦だ莫迦だ。莫迦ばかりだ。
席を立ち、厠で吐き戻しながら土方は何度も毒付いた。


 其の新年会帰り。酔い醒ましに少し歩いて帰るか、と近藤が提案した。何時もの事だ。屯所への道筋の何辻か前で車を降り、二人で夜道を歩く。酔い過ぎている、との自覚がある土方には辛くも有り難い提案だった。あのまま帰っても布団の上に一直線コースだっただろうから。土方は回る視界の中で小さな吐息を洩らした。其れは外気に触れ、白く煙る。雪でも降りそうな寒さだった。
 近藤は、土方と共に酒宴に出席した帰りは、こうして二人歩いて帰る事を提案してくる。土方には断る理由は無い。なので此れはほぼ慣例の事だ。
 誘ってくる意図は、近藤には酒宴帰りの土方の機嫌の悪さが判っているから、なのかもしれないが。己の内面を見せぬ様に努力をしているつもりだが、近藤相手には効果が無い事を土方は判っている。どんなに隠しても筒抜けだ。其れは己が近藤に甘えているからだ。そう、土方は思っている。──己が存外、感情を面に表し易い性質だという事を、土方自身は気付いていない。

白い息を吐きながら二人は歩く。
「…トシ?」
「…あ…!?…っ」
鬱々とした思考に囚われながら歩いていたら、直ぐ前を歩いている筈であった近藤に貌を覗き込まれていた。土方は直前迄全く其の事に気付かなかった。些か焦って、少しばかり仰け反った。仰け反った拍子に踏鞴を踏んだ。踏鞴を踏んだら、酔い過ぎている為か凍った道路に足をとられずるっと滑って転びかけた。
土方の其の挙動に、近藤は慌てて土方の腕を掴んだ。転びかける寸前で土方は近藤の腕でぶらん、とぶら下げられる。ぶら下げられた姿勢で土方は暫し呆然とした。何が起こったか検討が付かない、との表情だ。そんな土方を見下ろして、近藤は破顔し、力を込めて土方を確りと立たせてやった。
「何だ何だ、そんなに驚いて。ぼーっとしてると躓いて転ぶぞってか転びかけたぞ。」
「…っんな、アンタが驚かすからだろうがっ。」
土方は、掴まれていた腕を思い切り振って近藤から逃れる。罰が悪いのかそっぽを向いた。
「そーか?お前は案外抜けてっからなぁ。」
「煩ェ。」
「酔っ払い過ぎたか?オンブしてやろうか?」
「煩ェよっ平気だっつのっ。」
豪快に笑う近藤に対し叫んだ後、土方は渋い貌をした。そんな土方を見て、近藤は一つ息を吐く。
「トシよぅ。」
「…あんだよ。」
「まーた妙な事グルグル考えてんじゃねーだろな。」
お前はそういうとこあっからな、と云う近藤。だが土方は押し黙った。近藤はそんな土方を見て、苦笑をする。

「なぁ、トシ。」
其のまま暫く無言のまま二人歩いていたが、再度近藤は話し掛ける。
「…?」
「俺ァ、ああいう場、お前が苦手なのを知ってるよ。」
近藤らしい、唐突にして単刀直入な其の物言いに、土方は面食らった。だがやおら言葉を発す。
「……アンタもだろうが。」
「俺?俺はお前よりも得意だぞ?上からの受けもお前よりは良いぞー?」
「無理してんなや。咄嗟の機転も利かねェ癖に。」
「そういう時ゃ笑っとけば良いんだっつの。トシも笑え笑え。
ほーら、ずーっと顰めっ面して奥歯噛み締めてっと幸せも逃げていっちまうぞー?」

そう云いながら、近藤は右手を伸ばしてきた。そしてからかう様に土方の両頬をむにむにと掴んだ。流石に土方は驚いたが、それでも振り払おうという気にはならないのか、またムスリ、と押し黙る。
近藤はそんな土方に対し、笑いながら云う。
「トシ、そんなに嫌なら無理して出なくて良いんだぞ。」
「無理なんかしてねーよ。」
「嘘、してる。」
「してねェ。」
「してる。」
「してねェッ。」
「してる。」
「……。」

 子供じみた押し問答に頭痛がする。土方は溜息交じりの声で云う。
「例え苦手だったとしてもだな、仕事だろうが。嫌だから出ないって訳にもいかねーだろ。餓鬼じゃあるまいし。」
「大概は俺だけでも何とでもなるって。俺が局長なんだし?取り敢えずは俺が出ておきゃ上は納得するさ。」
「……。」
確かに其れは事実だった。土方なぞ、所詮副長の身だ。実際組織に於いて大事なのは頭だ。主に呼ばれているのは局長だ。副長は名の通り、局長の代役か人数賑やかし要員でしか過ぎない。
近藤の云うとおり大きな席にだけ出席しておけば良いのだろう。土方の様な小物が出席して喜ぶのは、小物を苛めて楽しむ意地の悪い連中位だ。寧ろ、土方なぞが居ようが居まいが、誰も気にもすまい。
だが。

「……近藤さん、アンタ誤解してるよ。俺ァ無理もしてねェし、嫌でもねェんだよ。」
土方は殊更ゆっくりと言葉を紡いだ。近藤は黙ったまま土方を見詰めていたが、
「……俺ァ、そんなに頼りないか?」
と、呟く。近藤一人では覚束無いと土方が思っている、とでも思考したのだろうが。
だが土方は苦笑しながら首を振る。其の様な事、唯の一度も思った覚えが無い。
「そうじゃねェ。勘繰り過ぎだ。」
「…そうか。なら良いんだがな。」
近藤は土方が頑固である事を理解している。
其れ以上は言及もせず、土方の肩を叩いて歩くのを促した。


 ──実際、己の事は如何でも良いのだ。土方は思う。
──如何でも良くないのは、近藤の事だ。
土方と同じ様に、否、土方以上に酒宴の場や集いも多い近藤は、己以上に此の様な莫迦げた場に出席する事が多い。己が慕う近藤がからかわれ、媚び諂い、芸を強要され、作り笑いをしている姿を見る度に、土方の腹には暗い何かが溜まっていく。そんな近藤を見ていたくない、近藤にそんな振る舞いをさせたくはない。だがだからといって、己の知らぬ場で彼が其の様な仕打ちを受けているのも、堪らないのだ。
 土方は、彼の負担が少しでも減れば良い、と思い常に彼を優先する思考で行動してしまう。土方の行動原理、土方の思考の原点は、一切合切全てが近藤に帰す。
 何とも女々しい思考だとは思うのだが。結局は土方の我侭でしか無いのだが。近藤にとっては重荷にもなりかねない想いである自覚はあるのだが。

──……アンタに、あんな、笑い方をさせたかった訳では無いのに。

 酒宴の席で窺い見た近藤の愛想笑いを思い出す。近藤には似つかわしくない。彼には豪快な笑顔が似合う。だが、彼にそんな貌をさせているのは、誰だ。そう振舞えと、立派な局長であれ、と縛り付けているのは、誰だ。
 …アンタには、アンタの望まぬ行為ばかりを強いている気がする。
剣を振り回していれば良い時代は過ぎ去ってしまった。今はもう互いに剣よりも寧ろ、筆を握っている事が多いかもしれない。刀の要らぬ平穏の世になった事を喜ぶべきなのかもしれないが。

 …近藤さん、アンタは今、満たされているのだろうか。…幸せなのだろうか。
自分は、己の我欲をぶつけ過ぎてやいないだろうか。己の事が重荷になってやしないだろうか。
土方は、己の少し前を歩く近藤へと胸中で語り掛ける。決して言葉には出さぬ想いだ。

──嗚呼結局。
俺はもう、如何しようも無い位、此の人に惚れているんだな。

不意に土方は、そう思った。
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