「枳(からたち)」……SSブログサイト。(銀魂中心。他雑多。只今ヘタリアとかBASARAとかも。)

21 斬るということ生きるということ-前編 


 此れは昔の話。真選組が結成されて数ヶ月経ったか否か、其の頃の話だ。
 仕事は順調とはいかぬ日々だった。未だ組織も不安定である。組織内を平定する為の雑用ばかりの日々。書類仕事に追われる日々。副長職なぞ、結局は雑用係である。隊内部の面倒事を一手に引き受けるだけの、云わば貧乏くじ的な立場だ。土方が自ずから引き受けた立場であるが、元々は向いているとは思っていない。唯剣を振り回しているだけの方がよっぽど性に合っている。他に適任者が居ないのと、土方自身が他人に仕事を任せられない性分であるので、しているだけなのだ。

 そんな中での捕り物劇に、土方の心は久々に躍った。
 小規模格の攘夷派郎党の潜伏先が密告された。
このまま泳がせ、更にデカイ魚を釣る為の生餌にしても良かったのだが──真選組として踏み込む事を決断した。魚を釣り上げるだけならば疑似餌でも如何にでもなる。危険な芽は摘み取るが、だが全体は生かさず殺さず。そう、攘夷派郎党には此れからも暴れ続けて貰わなくてはならない。真選組の存在意義と存続の為にも。

「御用改めである!」
 叫び、一番隊と二番隊を引き連れて土方は率先して暴れる。近藤には副長が真っ先に危険の中に飛び込むなぞ、と苦言を垂れられたが、此ればかりは譲らぬ。殺したいのか殺されたいのか。斬りたいのか斬られたいのか。土方は時に無謀だ。
 人を斬る高揚感を覚えてしまっては、人間もう駄目だな、と土方は思う。
思い起こせば、最初に人を斬ったのは何時だったろうか。斬った肉の感触に震え吐き気を覚えて刀を取り落とした記憶は、ある。だが其れも昔の話だ。感覚が麻痺した土方には、人を斬る事に対する罪悪感も焦燥感も寂寥感なぞも、最早無い。其処にあるのは命の取り合いに感じる高揚感と薄暗い悦びだけだ。後は無感情にも似た微感情。日常の一コマにしか過ぎなくなっている。恐ろしい話だ。

 また一人、男を斬った。逃げようとする男の背を袈裟懸けに斬る。思い切り踏み込んでしまった為、目の前で迸る鮮血に土方の身と視界が赤く染まった。直前に逃げる姿勢を見せた相手に対し、手加減しようとしたが失敗した。チッと舌打ちをして土方は顔を拭う。ぐるりと周囲を見回すと、土方が斬った男で最後の様だった。
 昨今は人を斬る事にも世間が煩い。マスコミが人権だなんざなぞ騒ぎ立てるようになったからだ。だが真選組には未だ、「もし手余り候節は斬捨御免」との強い権限があった。其れでもなるべくならば生け捕りにしたいものではあるが。口内にも入り込んできていた血液を吐き出しながら、土方は叫んだ。
「生き残りを捕縛しろ!!」

 ──視界の隅に沖田の姿が映った。
周囲の隊士よりも一回りは小さく細い身体は、ある意味目立つ。沖田は、刀を拭い鞘へと納めながら何時もと変わらぬ無表情面で土方の傍へと寄ってくる。全身血でずぶ濡れの土方とは反対に、返り血も殆ど浴びていない涼やかな姿だ。土方と同様、率先して飛び込んだ筈であるのに。
「土方さん、何でェ、其の酷い姿は。」
「煩ェよ。しくったんだよ。」
「……ヘタクソ。」
沖田は鼻で笑った。未だ少年の様な容貌を持つ沖田がすると、尚更嫌味がかった仕草だ。土方は、刀を握っていた手を制服で拭い、もう一度持ち直す。血でヌルヌルと滑って気持ちが悪い。刀自体も鮮血でドロドロだ。拭い取ったとしても鞘に納めない方が良い、と判断する。血が中で固まって抜けなくなりそうだ。
 沖田の言う通り、土方は剣がさほど巧くは無い。沖田の様に迅速に的確な剣なぞ、振れはしない。粗野で野蛮な太刀筋でしか無い。其れは己でも判ってはいるが、当の沖田に揶揄られると腹が立ち、再び苛立たしそうに舌打ちをしてしまった。土方のその様を見聞きし、沖田も再度、鼻で笑った。

 後処理をしている隊士を眺めながら指揮を執りながら、土方はふと思った。
──沖田が、初めて人を斬ったのは、何時だったろう。
……恐らく真選組が結成されてから、ではなかったろうか。武州に居た頃に真剣を持たせた記憶は無い。ならば江戸に出てきてからの筈だ。真選組が結成されてからならば、つい最近の話となる。なのに此の図太さと慣れた様子は一体如何なのだろうか。だからこそ頼りにもしているのだが。
…剣の申し子とはコイツの事を呼ぶのだろうか。
微かな苛立ちが更に深まった。此のクソガキと己を比べても、致し方無い事なのだが。──如何であれ、己は己の出来る事をするまでだ。土方は思う。

「副長、テレビ局と新聞社の奴等が。」
隊士の一人が報告に来た。日中に派手に暴れたものだから、マスコミに嗅ぎ付けられるのも早い。
「直ぐに行く。」
何時も通りの飄々とした面を晒している沖田を横目で眺めながら、そう云った。



「良くやってくれたな。」
近藤の部屋で詳細を報告する。近藤からの労いの言葉に、土方は肩を竦めた。今回の捕り物でも真選組への損害は殆ど無かった。精鋭の一番隊、二番隊を使ったのだから当たり前の事ではあるだろうが。だが近藤はこう続けた。
「けどよ。…最近っつか、ここんとこずっと総悟の隊を使い過ぎじゃねーか?」
「あァ。」
矢張り気付かれていたか。確かに他の隊よりも、沖田の一番隊を重用している。凶悪な事件ともなると必ずと言って良い程、一番隊を使用した。
「お前がまさか贔屓なぞする訳はねーだろうが…。」
「それは意図的にだよ。」
「あん?」
そろそろ説明せねばならない、と土方も思っていたところだ。胡坐を掻いていた姿勢から立ち上がり、少しばかり開いていた障子を確りと閉めた。そして戻ってまた座る。やおら近藤へと僅かばかりに貌を寄せた。土方が内密の話をする時の所作だ。近藤も聞く体勢に入る。

「なぁ近藤さん。真選組の知名度も、最初に比べたら結構上がったと思わねーか?」
「あん?まぁそうだが…。其れが如何かしたか。」
連日とは言えぬが、新聞紙上で真選組の名が上がる事も多くなった。賞賛の声は少なく、やっかみや非難の声で上がる事も多いが。だが、衆目を集める事は増えている。
「近藤さん、俺達は若い組織だ。其れだけじゃない、構成面子も、皆若い。局長のアンタでさえ、其の若さだ。」
「……。」
「松平のとっつぁんの思し召しは高いが、其れだけじゃこんな若い組織は生き残ってはいけねぇ。知名度を上げ実績を上げ、世間的にも真選組此処にありき、を認めさせねーと、直ぐさま潰されちまう可能性だってある。アンタだって苦労してんだから、其処んとこは判るだろ?」
「そうだが…。」
「だがな、どうやって上に認めさせるかが問題だ。事件はそうそう都合良くも起こってはくれねェ。其れに先ずは、俺達の存在を世間にも周知徹底させる必要がある。真選組、という組織をな。成り上がりの芋侍、と呼ばれる俺達の力をな。」
「……。」
「其処でだ。…総悟は、云わば客寄せパンダだよ。」
「あん?」
近藤にとっては、咄嗟には意味の掴めぬ言葉だった。土方は言葉を続ける。
「アイツの見目と立場を、利用したんだよ。」
「……?」
「未だガキにも見えるあの年齢、あの容姿で隊長だ。アンタ、アイツを隊長に据える、と俺が提言した時、渋ったよな。腕は確かだが未だ若過ぎる、と。」
「…あぁ。」
「俺は其処を逆手に取ろうと思った。歳若い奴を、一見虫も殺さぬ面をした奴を、頼りなさげな容姿の奴を、わざと世間に晒させた、矢面に立たせた。お陰で否応無しに良くも悪くも奴は目立ってたろう?真選組にはあんな子供まで居るのか、と。あれで一番隊隊長なのか、と。そんな奴のお陰で、真選組にも衆目だけは集まったろうて。」
「……トシ、まさか、マスコミを抑えなかったのも其のせいか。」
ニヤリ、と土方は笑う。嗅ぎ取られると煩い事件でさえ、世間にわざと報道させた。
「奴は頭は空だが、いざ捕り物となりゃ優秀だ。使い勝手は悪くは無い。客寄せといい、結構役に立ってもらったさ。」

「トシ。」
近藤は其処で言葉を遮った。土方は黙る。近藤はだが暫し沈黙を返していたが、ゆっくりと言葉を発した。
「トシ。…………俺ァ、そういうのは、嫌いだ。」
見ると近藤は渋い顔をしている。だが土方は、笑った。
「……判ってるよ。」
「道具みたいに言うのは、好かん。」
「…あぁ。アンタがこういうの嫌いなのは、判ってる。」
「……。」
「だから、今まで黙ってた。」
「……。」
「まぁ、そろそろ必要もねーと思っていたところだからな。良い機会だ。止めるさ。」
「トシ……。」
「……そういうこった。後、報告する事は無ェ。戻るよ。未だ残務がある。」
「……あァ。」
障子を開けて部屋外へと出た。後ろ手にゆっくりと閉める。土方の背後で、近藤の溜息が聞こえた。だが土方は聞こえぬ振りをした。

──奇麗事だけじゃ、やっていけねーんだぜ、近藤さん。
土方は胸中で呟くと、最近吸い始めた煙草を銜えて空を仰いだ。何の気なしに始めた煙草だったが、ストレスが溜まると吸いたくなる、という事実に最近気付き始めたところだ。吸う量が増えすぎなければ良いが、とどこか他人事の様に思いながら火を灯した。深く息を吸い込むと、寒さでか煙草の煙のせいでか、肺が微かに痛んだ。
 外では雪がちらほらと降り始めていた。廊下を歩く土方の煙草の先端に触れるや否や、雪は儚く消える。其の様を見て、まるで人の命の様だ、と思う。センチメンタリズムな己の其の思考に、土方は微かに苦笑した。



 夕方から降り出した雪は、夜半を過ぎると江戸には珍しく大雪となった。明け方近くに目が覚めた土方は、厠へと赴く為に部屋外に出て驚いた。堆く降り積もっている雪を見て、此れでは今日は都市機能も麻痺をするだろう、と土方は推測する。寒さに震えながら廊下を歩いていると。…未だ暗い庭に、人影を見付けた。白い着物の、細い背の姿。──沖田だ。沖田が、雪の降り積もった白い庭で一人、佇んでいた。土方は微かに眼を見開く。暫し眺めた後、声を掛けた。
「…総悟。」
「……。」
だが返事が無い。もう一度土方は声を発した。
「オイ、総悟。」
「……。」
其れでも沖田は微動だにしなかった。土方はもう一度沖田を眺める。…薄手の着物一枚の姿。未だか細い首筋と手首が見える。しかも、足は素足の様だ。淡い色の髪にも雪が降り積もっている。かなりの長時間そこに居る、という証拠だ。土方は流石に息を飲んだ。もう一度声を掛け、それでも振り向かなければ己も庭に降りるか、と決意する。
「総悟。」

「……?」
其処で漸く、沖田は気付いた。ゆるりとこちらへと顔を向けた。土方は内心ほっとする。だが沖田の様子はまるで。
「……あぁ、土方さんか。何してんですかィ。」
「…そりゃこっちの台詞だ。何してんだ、早く上がって来い。」
「……。」
だが、問い掛けに答える事も無い。
──まるで幽鬼の様に色の無い沖田。少しの間茫洋としていた様だが、ややあって後、素直に戻ってきた。着物も、髪も、肌の色すらも全てが白い其の様を見下ろしながら、土方は渋い顔をする。そして再び問い掛けた。
「…何してたんだ。」
「…別に。ぼーっとしてただけですぜ。」
「雪ン中、んな格好でするバカがあるかボケ。」
「あーー…バカだとかボケだとか、煩いですぜ。」
「バカにボケといって何が悪い。」
そう云いながら、沖田の頭部に乗っている雪を払う。髪までもが酷く冷えている。それどころでなく、半ば凍っている程だ。少し考えた後、沖田の手を掴んだ。氷の様だ。己の冷えてきた手にも、冷たさが沁みる様だ。
「…何ですかィ。」
沖田は嫌がるように振り払おうとするが、離してはやらずに。そのまま睨み付ける。
「……幾らバカでも風邪引くぞ。」
「あー……それも願ってんですけどねぇ。サボる口実にならァ。」
「テメェな。」
土方は溜息を付いた。本当に土方には理解出来ぬ奴だ。僅かばかりに心配した気持ちが馬鹿馬鹿しい、とばかりに苛立たしげに手を離そうとした瞬間。沖田がボソリと呟いた。
「……最近……。」
「…ア?」
「…何か、判らないんです、最近。」
「……アァ?」
沖田は、再度呟いた。
「最近、何か良くわかんねーんです。」
「……?」
「痛ぇとか、冷たいとか、寒いとか。美味いとか…何かそういうの。」
「……。」
「良くわかんねェんです。」
「お前……。」
「こうして雪ン中に居れば、少しはそういうの判るかな、って思ったんですがね。一向にわかんねーままで。そうこうしてる内にどんどこ時間が過ぎてやした。やっべーな、全然寝てねェや。」
「……。」
土方は押し黙った。沖田は一体何時からこうしていたのだろうか。寝ていない、とすると下手すると数時間か。……幾ら変わった奴と雖も、オカシイ。

「……なーんて。」
流石に眉根を寄せた土方だが、そんな土方に対しニヤリと笑う沖田が居た。
「冗談ですぜ。さーて、一眠りすっかなァ。」
そう云い欠伸をする沖田。普段と変わらぬその様子を見、また騙されたのだろうか、と土方は思うが。

触れている手の氷の様な冷たさ、幽鬼の様な先程の姿を思い返して。少しばかりの不安を感じた。



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