「枳(からたち)」……SSブログサイト。(銀魂中心。他雑多。只今ヘタリアとかBASARAとかも。)

21 斬るということ生きるということ-後編 


 二月二日。本日は節分の前日だ。だが真選組内部は慌しい。本日、将軍がとある神社の節分祭に参拝なされる、との事で真選組に護衛の任が下されていたからだ。通常業務への人員の割り当てを最小限へと押さえ、局長以下、ほぼ全ての隊士で任に当たる。刻限は午後六時より。冬の寒さ未だ厳しい今の時期では、既に暗闇に覆われている時刻だ。つまり、警護するには難しい時間帯だ。だが将軍にもしもの事が有れば、全員の首が飛ぶ。其れだけ緊張を強いられる任務とも云えよう。

 昼過ぎ。土方は近藤と共に、境内隅で警邏の最終調整に当たっていた。神社の境内は人込みでごった返している。そんな中で真選組の黒い制服姿が慌しく動いている。黒く不吉なその姿に、祭りの最中の男女は眉根を顰めるがこちとら知った事では無い。
「八、九、十番隊で江戸の通常警邏。こっちは原田達に任せてあるから心配は要らない。神社内での将軍の周囲は一から五番隊迄で護衛する。近藤さん、此処はアンタに頼むぜ。俺は他をあたる。残りの六番隊、七番隊は借りるぜ。」
「其れだけで足りるのか?」
「他ン場所は見廻組の連中やらが縄張り主張しやがって手が出せねェ。いちいち煩い奴等だよ…。まァ、面倒だから奴等に任せときゃ良いさ。…今回、将軍の最も傍に侍るのは、俺達だ。」
 将軍の護衛という重大な任は、身分的にも慣習的にも真選組に任せられる事は無い筈だ。だが真選組を組織した松平は将軍の父代わりとも云われている。その恩情を受けて真選組の勢力は着実に拡大していた。見廻組も同じく松平の配下であり、幕臣共によって組織されている組織ではあるのだが、松平にとっては気位や自尊心が高く金もかかる見廻組は扱い難い存在らしい。真選組はそんな見廻組連中にとっては、目の上のタンコブとも云えよう。常日頃から対立し合っている仲だ。
 土方は近藤の肩を叩いた。
「まぁせいぜい、将軍様に目ェ掛けて貰うんだな。」
「目の前で踊ってみせたら良いかな?」
近藤のそんな冗談に笑いながら土方は云った。
「そんな程度で良いなら、俺ァ、裸踊りでも何でもしてやらァ。」

 夕刻。将軍が本宮前に有らせられる。其の傍には近藤以下の隊士。土方は遠巻きに其れを眺めていた。毎年恒例の「追儺式」が始まろうとしている。追儺式とは俗に云う「鬼やらい」の儀式だ。鬼を払い、福を取り入れる、日本古来からの行事だ。赤鬼、青鬼に扮した男が追いやられる様を見、土方は鼻を鳴らした。
──鬼があんなに可愛いもんな訳あるめェ。
仕事中でなければ見ても楽しめたかもしれぬが、今は皮肉に満ちた眼でしか眺められない。フン、とまた一つ、土方は笑った。
だがその時。小さな叫び声が上がったのを耳にした。

「……ッ?」
声の上がった方へと視線を飛ばす。視線の先は。…将軍のおわす場所。何事かあったのだろうか。今度は更に大きな声が上がる。境内がざわめく。
「……テメェらは其処に居ろ!」
未だ持ち場を離れるな、と云い付けて土方は小走りとなる。走った先で視界に入ったのは。将軍に向かって刀を振り被った隊服姿の男と、将軍を庇う近藤の姿。悲鳴。怒号。

──近藤が斬られる。…斬られた。
上がる血飛沫。土方は何事かを叫んだ。だが近藤は倒れなかった。更に斬り付けようとする男。天誅と叫ぶ。周囲から他の隊士が飛び掛かろうとするが酷く暴れて近寄れない。其の上人込みの中から刀を持った男が数名飛び出してきた。仲間か。土方は走りながら再度叫んだ。
「将軍を護れ!!六番隊、七番隊は一般人を誘導しろ!!…離れろ!!」
何よりも将軍の安全が第一だ。其れから最初に近藤を斬った男へと視線を飛ばす。──隊服姿。だが見た事の無い貌だ。暗闇に乗じて紛れ込んだか。…とんだ失態だ。暴れて手に負えぬ様を見て、土方も刀を抜く。

 其の時。一つの細い影が走り。隊服姿の男の右腕を一瞬にして斬り落とした。土方にも見えなかった其の太刀筋。刀を持ったままの男の右腕がボトリ、と落ちる。悲鳴も上がらぬ内に続け様に、左腕をも斬り飛ばした。其処で漸く、男の酷い悲鳴が上がった。だが斬った男は──沖田は無表情な面のまま、最後に首を、跳ね飛ばした。コロリコロリ、と鞠の様に転がる首。そして暫し後に倒れる、首の無い身体。
そうして沖田は、微かに笑った。土方はその笑顔に、冷たくも凄まじい怒りを感じた。

 余りにも鮮やかで残酷なその手腕に、周囲が一瞬静まり返る。其れを破るかの如くの土方の怒声。
「全員ひっ捕らえろ!!逃がすな!!」
叫びながら近藤の元へと急ぐ。斬られながらも立ち続けていた近藤だったが、土方が辿り着いた瞬間、崩れ落ちた。慌てて抱き上げる。ぬるりと滑る血。
「近藤さん、近藤さん!!…山崎ィ!!」
「…病院へは既に連絡済です。後数分で到着するかと。」
何時如何なる時も冷静であれ。優秀な監察方である山崎は静かに答え、そして手際良く応急処置を始めた。
「…傷は深いですが、大丈夫だとは思います。」
医学も嗜んでいる男からの言葉に、土方はホッとする。そして周囲の状況を見る。土方が先程視界で確認した敵は、隊服の男も含めて──七名。その全員が斬られるか捕縛されるかはした模様だ。だが他にも居るかもしれぬ。指示を発そうとしたが。其処で直ぐ傍に突っ立ったままの沖田に気付いた。捕縛に参加する事も無く、近藤の元へ走る訳でも無く。沖田は唯静かに、己が首を飛ばした男を見詰めていた。

「…総悟…?」
 声を掛けるのを躊躇いながらも、土方は名を呼んだ。ゆらりと沖田の身体が此方を向く。
──嗚呼、この様はまるで。まるで。
……あの夜の彼の様だ。幽鬼の如く。白い、貌。
土方は何故かゾクリ、と震えた。

 人形の様な沖田の口がカクリ、と開き、そして動いた。其の様を見て土方は漸く現実へと立ち戻る。
「近藤さんは……。」
「あ、アァ…大丈夫だ。助かる。」
沖田は、血塗られた刀を携えたまま、ゆぅらりゆらりと近藤の元へと近寄り、跪く。そして。
「こんどう、さん。」
そう呟いた。
土方は、其れ以上は何も声を掛けられなくなってしまった。



 近藤の傷は深かったが、幸い命は取り留めた。近藤が不在の間、隊を取り仕切る役目に有る土方には、近藤が入院している病院に見舞う暇すらも無かった。なんせ、将軍の直ぐ間近にまで不穏分子を入れてしまっていたのだ。しかも其の内の一人は隊士姿に扮していた。土方は、己の指揮、人員配置、全てに置いて甘かった、と悔やむ。
 だがしかし、将軍からは何のお咎めも無かった。近藤が身を挺して将軍を庇った事が評価されたのだ。近藤の身体が回復次第、参上致せ、その言葉すら賜った。

 土方が漸く時間を取れて近藤を見舞えたのは、事件が起こって後三日後の事だった。
 近藤は流石と云うべきか、既に身を起こせる程まで回復していた。土方の姿を見て貌を綻ばせる。土方も薄く笑んだ。
「よぅ大将。元気そうじゃねーか。」
「まァな。もう身体が鈍って仕方が無ェよ。」
「折角だからもうちょい大人しくしてな。」
「折角だからって何だそれは。」
取り止めも無い会話、隊の様子等をツラツラと話していたが、不意に近藤の貌が曇った事に気付く。
「…近藤さん?」
そう問い掛けると、近藤は更に気遣わしそうな表情となった。まるで、何かを気に病んでいる表情だ。
「なぁトシ。…総悟は、如何してる。」
「……見舞いに来てねェのか?」
有り得ない話だ。あれ程近藤に懐いている沖田が、見舞いに来ない筈も無い。だが近藤は云う。
「いや、そうじゃねーんだ。見舞いにゃ来てるよ、毎日な。」
「…なら、俺に聞くまでも無いんじゃねーのか。」
近藤の真意が判らずに土方は云った。
「……そうなんだがな。そうなんだが。」
「……。」
土方は、近藤の言葉を待った。
「何ていうか。…俺ァ、最近アイツが心配なんだよ。」
「…は?」
「アイツは、平気か?」
「だから何が…」

そう云いながらも、土方には思い当たる節がある。雪の夜に見た沖田の姿。幽鬼じみた気配、危うい様な表情を思い出す。そしてあの、警護の夜の姿。人形の様な沖田。カクリと動いた、口。
しかし近藤にはそんな沖田の様子は話してはいない。平常の沖田は、何時もながらの沖田なのだ。なのに近藤は気遣わしげにしている。土方では気付けぬ何かに気付いているのだろうか。
近藤はポツリ、と語りだす。
「俺ァなぁ。総悟がずーっと無理してんじゃねーだろうかって思ってな。」
「……。」
「俺達大人に囲まれて、ずーっと背伸びしてんじゃねーかって思ってな。」
「……。」
「アイツに剣を覚えさせたのは俺だが、本当は…正しかった事なんだろうか、と最近思うんだよ。」
「何を…。」
沖田の根底を否定する様な事を、何故今更云うのか、と土方は思う。

「俺ァな、トシ。」
「……。」
「総悟を、あんな笑い方をする奴にしたかった訳じゃねーんだよ。」
近藤が斬られた時の事だろうか。あの時の沖田の様子を思い出す。だが、今更ではないか。
「……。」
「この前は心底冷えた。」
そう、今更だ。何故今になって。──迷うつもりか。
「……。」
「人殺しの目にさせたかった訳じゃねーんだ。」
「近藤さん。」
咎める様に土方は名前を呼んだ。続ける。
「なら今直ぐ武州に帰せ。奴が文句云う様なら、殴り付けてでも帰せ。」
「……。」
土方は自分でも驚く程のキツイ声音でそう云った。近藤は押し黙った。だが土方は続ける。
「今更迷う位ならそもそも連れて来なかったら良かったんだよ。
アンタはアイツに対して甘過ぎる。アイツに対しては盲目になり過ぎる。アンタ、判ってる筈だろ?」
「……。」
「人殺しの目にしたくなかっただァ?近藤さん、アンタ何奇麗事云ってんだ。士道だ侍だ武士だ、何だかんだいってても、結局俺等は人殺しなんだよ。アンタも俺も奴も人殺しなんだよ。けどな、けどなぁ。」
そこで土方は言葉を区切った。そして再度紡ぐ。

「──……刀は人殺しの道具だ。だが使う者によっては何かを奪う道具にも護る道具にもなる。
……俺達は、奪うだけでない、誰かを、何かを護れる侍にもなろう。
そう、俺達に教えてくれたのはアンタだろうが。そう、俺達に道を示してくれたのは、アンタじゃねェか。
忘れちまったのか?」
「……そう、だな。」
「確かにアンタの云う事は奇麗事かもしれねぇ。だが俺ァ、そんな奇麗事を云うアンタが好きなんだよ。そんなアンタだから…付いてきてんだよ。それは、アイツも一緒だろうよ。…そんなアンタを護る為に、奴は剣を振ったんだ。…そんなアンタを助けたくて、奴は人を斬ったんだ。」
「……。」
「奴が無理してるだ?してるに決まってんだろ。奴が背伸びしてるだ?してるに決まってんだろ。俺達に追い付く為に、毎日必死に努力してるだろうよ。」
「……。」
「近藤さん、俺達が……否、アンタが迷えば、アイツは道を失うぜ。
俺は自分の意思で江戸に出て来た。侍になる為、剣を取り戻す為、そして…アンタを高みへと上がらせる為。全て己が決めた事だ。」
近藤の眼を見詰めながら土方は云う。
「……。」
「しかしアイツは違う。…アンタだよ。アンタが居るから、唯其れだけの理由で付いて来たんだよ。アイツには武士になるとか、剣を取り戻す為とか、そんな俗世感情は無ェんだよ。アンタが居るから、唯純粋に其れだけが動機なんだ。…それは、アンタが一番判ってんだろ?

良いも悪いも、アイツにとってはアンタは親鳥なんだよ。アイツは未だ雛鳥だ。
肯定してやれば良い、笑ってやれば良い、抱き締めてやれば良い。怒ってやれば良い。
全部、アンタにしか出来ない事だ。今はアンタしかアイツを抱き締めてやれる奴はいねェ。……剣を教えなければ良かった、なんて…否定してやらないでくれや。
アイツには、アンタの云う事が全てなんだよ。今アンタに否定されたら生きてけねーだろうよ。
……道を指し示してやれよ。

……アイツが何時か、自分の足で自分の道を歩めるようになるまでな。」

一息にそう云った後、己には似つかわしくない言葉を発した、と土方は貌を歪めた。長い沈黙の後、近藤は苦く笑んだ。
「…そうだったな。」
「弱ってんじゃねーよ大将。怪我して滅入っちまったのかよ。」
「……悪かったよ、トシ。俺が間違ってた。」
「…………いや、俺も悪かった。」
「トシ。」
「そうだよな…アイツァ、未だガキだったんだ。…平気な訳、ねーよな。ずっと神経張り詰めてた筈だよな。気付けなかった。否…気付かない振りをしてたよ。アンタの云う通りだ。」
「……俺もだよ。」
「なのに俺ァ、道具みてぇに奴を酷使したよ。…反省してる。…悪かった。」
「俺に謝る話じゃねェ。」
「……奴に謝るのは癪なんだよ。」
「オイオイ。」
近藤は苦笑染みてはいたが、だがそれでも笑顔となった。土方も釣られて笑みを浮かべる。そして近藤の方へと右手を伸ばす。斬られた肩口から胸元へと、傷へと響かぬようにそっと、触れた。
「怪我……平気か?」
「あぁ、全然平気だ。心配すンな。」
ニカッと笑む近藤。その笑顔を見て、土方も柔らかく笑む。だが瞬間、近藤が斬られた時に感じた脳が沸騰するかと思う程の感情を思い出し、土方はフルリ、と震えた。近藤はそれに気付き、気遣わしげに問い掛ける。
「トシ…?」
その声に煽られるかの如く、土方は荒く息を吐いた。身が震える。近藤の傷に響かぬ様に、近藤の身体に触れさせていた手を静かに離した。其の手を、爪が皮膚に食い込む程に握り込む。そしてやおら、ポツリ、と語った。
「…アンタが斬られた時。」
「……。」
「目の前が真っ赤になった。…総悟が斬ってなきゃ、俺が斬ってたよ。」
「…トシ。」
「…無事で良かった。…無事で…。アンタに何かあったら、俺ァ……」
そう云いながら土方は左手で貌を覆った。肩を震わせる。
滅多に見せぬ土方の弱い部分が垣間見える。近藤は、何も云わずに土方の髪をくしゃりと撫でた。



 其の夜。雪が静かに降る夜。深夜。土方は静かに寝所を抜け出した。一瞬で手が悴む程の寒さの中、長い廊下を歩く。そして、再び見付けた影。だが土方は直ぐには声を掛けずに煙草を取り出し銜えた。火を付けて音も無く燻らせる。柱へと寄り掛かり、暫し影を見詰めていたが、漸く声を発する。
「……総悟。」
 沖田は、以前とは少しばかり異なり、一度の呼び掛けで此方を向いた。まるで土方が来るのを判っていたかの様な。勘ぐり過ぎかもしれないが。
「……土方さん。」
「何か判ったか。」
戻って来い、とも云わず、咎めもせずに土方はそう問い掛けた。沖田はゆるりと首を傾げる。
「…いえ。」
「…そーか。」
「でも一つだけ。」
「……。」
「人間って、儚いものですね。」
沖田らしくもないその言葉に、土方は薄く笑う。
「…妙な事考えてんなや。」
「妙ですか。」
「お前、そんな思考に囚われてたら、剣が鈍るぞ。」
「……。」
「何時ものお前らしく、何も考えねーでぶん回しときゃ良いんだよ。」
「ひでぇ物言いだ。」
「酷かねェよ。俺には出来ない事だからな。……俺の剣は、鈍い。」
沖田は驚いた様に微かに眼を見開いた。

 何を思ったのか、唐突に土方も雪の上へと下りてきた。黒い着物姿の為、無論素足でだ。沖田は更に驚く。ざくざくと雪を踏みしめて、土方は沖田の傍へと近付いた。貌を顰めながらブツブツと文句を云っている。
「うお、冷てェッ。お前良く平気だな…。」
「何してんですかィ土方さん…。」
「さぁな。俺もわかんねー。」
土方は皮肉げに笑う。そして続ける。
「けどな、こうすると、テメェみてーに頭空っぽになれっかな、と思ってな。」
「莫迦にしてんですかィ。」
様々な柵に囚われている己の刀は鈍い、そう暗喩する土方だ。莫迦にする意図だけでは有るまい。それ位は沖田にも判る。だが。
「……頭空っぽだからこうしてる訳じゃないですぜ。」
「…判ってるよ。」
煙草を燻らせながら、土方は白く冷たい物が落ちてくる虚空を仰ぐ。そんな土方を見詰めて、沖田は今なら素直に言葉を紡げるのではないか、不意にそう思った。そしてするりと滑り出した言葉。常には聞けぬ沖田の、本音。

「………誰だって直ぐ死んじまう。人間なんざ、鬼灯(ほおずき)みてェに突付いただけで直ぐに弾け飛ぶ。人間なんざ、この雪みてェに直ぐに消えちまう。そうだろィ、土方さん。」
「……。」
「怖ェんだ。」
「……。」
「人を斬る事を覚えて、人間の脆さを知った。」
「……。」
「何処を如何斬れば死ぬか。何処を如何斬れば死なせずに、だが苦しませられるか。今は手に取るように判る。ほんの少し剣先が刺さっただけでも、人は死ぬ。薄皮一枚剥けば人は皆同じだ。唯の同じ血肉があるだけ。
…そういう事が判れば判る程、怖くなった。」
「……。」
「そんな事をずっと考えてる内に、何もかもがあやふやになってきた。結局は俺も脆い人間って事何ですかね。」
「…何が怖い。己が死ぬ事がか?」
土方の静かなその問い掛けに、だが沖田はゆるりと頭を横へと振った。
「あの人達が死んでしまうのが、怖い。」
「……。」
「あの人達を護らなくては、という想いで、狂いそうになる時があんだ。」
沖田はふるり、と震えた。寒さからではない。近藤が斬られた時の事を思い出したか。確かにあの時の沖田は狂気染みていた。
──近藤と姉を想ってか。だが想う余りに己が狂ってしまってはいたしかたないではないか。
狂う程に求める沖田の愛し方は、火の様に激しい。土方は思う。

「…俺は死なねーぜ。」
唐突に土方は言葉を挟んだ。短くなっていた煙草を雪の上に捨てると、再度懐から煙草を取り出し唇に挟む。文脈の読めぬ土方の言葉に、沖田は胡乱気な視線を向けた。沖田にとって、土方の事など如何でも良いのだ。土方が死のうが如何しようが、沖田にとっては如何でも良い。寧ろ死んで欲しい、と常日頃云っている位なのだから。それは土方も判っている筈だ。なのに何故。
「……?アンタの事じゃねーよ。」
「テメェが如何し様が、何が有ろうが、俺ァ死なないぜ。」
「……だから、アンタは死ねば良い。」
「死なねーよ?」
「死ね。弾け死ね。」
「だから死なねーって。」
「消えちまえ。」
「消えもしねェ。」
「……。」

 何時も通りの押し問答の様に思えて。だが、何時もとは違う。何時もならば土方からも「テメェが死ね。」との言葉が返って来る筈だ。なのに土方は「死なない」事を強調する。沖田は苛立たしげに眉根を寄せる。土方は続ける。
「幾らでも掛かって来いよ。絶対死んでなんかやらねェ。生き足掻いてやる。」
「……。」
「俺は、絶対に、死なない。何があってもだ。良いな?」
自分自身と沖田に云い聞かせているかの様な口調。ゆっくりとした言葉で、紡ぐのは「約束」にも似た言葉。
「…………。」
「テメェに、人間って奴がどんだけしぶといか、教えてやるよ。」
土方は銜えていた煙草を指で抓み持ち、歯を剥いて野蛮に笑った。

 ──雪の中に獣が居る。…確かに、此の黒い獣を殺すのは骨が折れそうだ。沖田は思う。
此の一連の行為や言葉が土方なりの励ましなのだと、沖田は気付いただろうか。沖田は複雑な感情を込めて貌を歪めて、もう一度、死ね、と呟いた。
吐息が白く煙った。生きている証。

──春は未だ遠い。深深と降り積もる雪。其れ等は黒白の影、土方と沖田の上にも降り続ける。
だがいずれ、此の雪も融けるだろう。
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