「枳(からたち)」……SSブログサイト。(銀魂中心。他雑多。只今ヘタリアとかBASARAとかも。)

03 「…御免な。」 


 深夜。憂鬱な見廻りを終えると雨が未だ降りしきる中を沖田と連れ立って屯所に戻った。沖田は直ぐ様部屋に戻って寝ようとしていた。相当眠かったのであろう、茫洋と目許を擦る相手に対し、ガキには夜更かしは辛いか、と揶揄り笑ってやる。だが笑う土方に気付くと、部屋に入り様脇腹に拳を入れてきた。己の脾腹(ひばら)に見事に決まった相手の拳。情けない事に土方は其の痛みに暫し悶絶した。そして悶絶している間にさっさと襖は閉められた。──畜生、俺はとことん舐められているらしい。本当、覚えていやがれ莫迦総悟。
 だが自分も湯を浴びて少しばかりは仮眠を取るか、と廊下を歩いていると不意に山崎と遭遇した。寝ているものだとばかり思っていた山崎が起きていた事に少々驚く。傷だらけの相手の顔に二度驚く。其の腕の中に抱かれている小さな生き物の存在に、三度驚かされる。如何やら土方が戻るのを待ち構えていた、らしい。…何故か苛付いた。

 ──雨の日は嫌いなのだ。不測の事態が頻繁に起こり過ぎる。雨音の心地良さに己の神経も鈍感になっていて、事が起こっても上手く事態に対処が取れない。そうした苛々とした感情を、雨模様の空と何の罪も無いだろう山崎にぶつける。此れが八つ当たりであるのは判っている。だが、止められぬ。如何しようも無い己の癇癪持ちの性は自覚が有るのだ。自覚が有る気質程如何しようも無いモノは無い。取り合えず目の前で俯く山崎の頭を一つ、張り倒した。涙目になる山崎を見て、少しだけ気分が落ち着いた。

 山崎は腕の中で鳴く猫をあやしながらポツポツと理由を語り出した。如何やら其の猫は局長が拾ってきた猫らしい。局長は夜半過ぎにずぶ濡れになって帰って来たかと思うと、其の懐から此の猫を取り出し面目無さそうに山崎に預けたのだそうだ。大方雨の中捨てられていた猫を見捨てる事が出来なかったのだろう。本当に甘い人だ。仕方無い人だ。…優しい、人だ。
 だがさて如何するか。無論飼う訳にはいかない。猫等を飼っている余裕は俺達には無い。だが、よもや再び捨て置く訳にもいくまい。屹度(きっと)局長は己に懇願するだろうから。

『トシィ…俺が責任持ってちゃんと飼い主を探すからよ。其れ迄は置いてやってくれや。頼むよトシ、な?』

とか何とか云ってくるのだろう。大きな身体を縮めて、情けない面を晒して頭を下げてくるのだろう。易々と想像が付く己もアレだが、易々と己なんざに頭を下げるあの人もあの人だ。そして自分はあの人には逆らえない。
 ──だが何故、あの人は此の様な小さな命の為に必死になれるのだろう。他者の存在の為に行動が出来るのだろう。山崎の腕に抱えられた子猫に視線をも向けずにふと思考した。
 ──否、土方も実際理解は、出来るのだ。小さな命、可愛い存在。庇護すべき生き物。目を向ければ己も情が湧くだろう、酷く愛らしい、子猫。──だから土方は目をもくれない。理解は出来るが行動は取らない。無表情を貫き通す。憐憫(れんびん)の情が湧くと己は弱くなる。其の様な感情、己には必要は無い。己が視界に入れるのはあの人の背中だけで良い。
──たかが猫如きに何故か躍起(やっき)になる己が居た。何故だかは判らない。嗚呼、屹度雨だからだ。己の気難しさは棚に上げ、天気に難癖を付ける。

 だが──傍目からも自分は其処迄冷血漢だと思われているのだろうか。隊士共からも周囲の誰からも「鬼」と呼ばれる様に仕向けたのは自分自身では有る。が、こうもあから様な態度を取られると傷付き等は更々しないが、少々閉口はする。ビクビクと未だ怯えて俯く山崎の旋毛を見下ろしながら、胸の奥でそっと嘆息した。子猫に視線をも向けない己に怯えているのだろう。其れは判る。判るが、冷静に状況を考えてもよもや取って食う訳でも有るまいし、其処迄怯えられる理由が判らない。知れずまた不機嫌気に眉根が寄った。だが反射的に再び手が出掛けるのだけは抑え付ける。

「……山崎。里親探しとけ。」
ふと漏れた土方の其の言葉に、肩を揺らし目を見開いた山崎が見上げてくる。其の萎縮したかの様な仕草にまた苛立った。矢張り再び手が出て山崎の頬を張り飛ばした。力が強過ぎたのか、蹌踉(よろ)めいた山崎のもう片頬も等しく張り飛ばす。今夜は苛々し過ぎだ。如何した事か。だが、踏鞴(たたら)を踏んだ山崎を見下ろしながらも云い放った。
「屯所で飼えねェのは判ってんだろが。かと云って一度拾っちまったモン捨てる訳にもいかねェんだからよ。三日だ。三日で探せ。」
「あ…。」
「返事は!」
「あ……はい!!」
泣き顔のまま一瞬惚けた後、そう叫ぶと一転喜色を浮かべて子猫を抱え直す山崎。
「良かったなぁお前ら。副長の許しが出たぞ。」
 山崎は笑いながら子猫をあやし、土方に一度大きく頭を下げると足取りも軽やかに去っていった。だがもし土方が許さなくとも、隠れて飼うか里親探しに奔走していただろうに。部下の行動位は手に取る様に判る。把握しているつもりだ。だからこそ命令を下した。副長命令とあらば、アイツも大手に動き易いだろう。だが仕事も確りやっては貰うが。
 泣いた鴉がもう笑ったか。単純な相手に呆気に取られて、気付けば苛立ちも幾分収まっていた。反面、頭痛がし始めたが。…アイツは有能なのだが、情に弱い面が有る。其の点何とか躾けられないモノか、と痛みを訴えてくる額を押さえながら脳裏の片隅で考えた。
 ──山崎の事をとやかく云う前に、自分は如何なのだ。情に囚われるのに怯えて逃げている己の性根は棚上げか。お笑い様だな。
続いて心中でそう呟きながら一人佇み唇を歪めた。──雨は未だ止まず。


 山崎と別れた後、風呂に入り仮眠を取る為に己の部屋に戻ろうとしたが、ふと、局長の部屋前で佇んだ。暫し後に其の部屋へと忍び込む。本当は朝一で様子を見に行く心積もりであった。雨に濡れて帰って来たという。風邪を引いていないだろうか、喉を痛めたりはしていないだろうか、等々心配性かもしれぬが、気にはなる。だが、深夜に押し掛けるのも如何かと思い朝に赴こうとしていたのだ。
 けれど、如何にも今直ぐにでも顔が見たくなった。寝付きの良い此の人が起きてはいない事は百も承知であるのだが。其れでも、寝顔だけでも眼にしたい、そう思った。──部屋に忍び入り静かに襖を閉めた時…何故だか少しばかり、疚しい心持になった。

 枕元に跪いて見下ろす。穏やかな寝顔を見下ろす。小さな命を救ったアンタ。だが、少しばかり、哀しそうなのは何故?自分が怒鳴るであろう事を危惧でもしているのだろうか、そう思い嘆息する。
…己とて、其処迄冷徹では無い筈、なんだが。だが面倒事を抱え込むのは御免だ、と心の隅で思ってしまった自分も居る。子猫位捨て置け、と山崎に云い掛けた自分が居る。…醜い人間だよ、本当に。
 ──冷酷さの仮面を被り続ける内に、心底冷たい人間になってしまったのだろうか。悪を憎み弱者を助ける、男の、武士の鑑とも云える行動を取ろうとする此の人の手足になりたい、そう思っているだけなのに。知れず被り続けた鬼の仮面は、今は皮膚の一部となってしまってもう簡単には取れそうにも無い。
 思わず苦い笑みを浮かべた。
「…近藤、さん。」
小さく呼び掛ける声に答えは無い。其の頬に緩く手を滑らせる。とても暖かい頬。己の手が酷く冷たくなっていた事に其の時気付いて、其の冷たさで此の人を起こしてしまうのでは、と危惧し慌てて手を引き戻した。けれど、目前の人は一向に目を覚ます気配は無かった。安堵し小さく息を吐くと再び手を伸ばす。おずおずとした仕草で、冷えた両手を伸ばし相手の両頬を包み込む。──暖かい。また再び息が漏れた。其の時、喉奥から掠れる様に漏れる己の息が熱くなっている事に気付いた。何だ、己は此の状況に昂ぶっているのか、と図らずも認識してしまう。そして先程迄の苛立ちの原因は此れかと。下世話な話だが、最近激務が続き抜いていない。もしや身体奥で燻った熱を持て余していたのか。──気付いて自嘲する。
──……嗚呼、醜い。

 だが、伸ばした手を引き戻す事は出来なかった。
「…御免な。」
貌を寄せながら、小さく謝罪の言葉を呟くが、だが己は一体何に対して謝ったのであろう。何時も厳しく接してしまう、素直に対応する事の出来ない自分の気質に対する謝罪か。其れとも、アンタに劣情を感じている事に対する謝罪か。己でも判らぬままに呟き掛けて唇を寄せる。が、唇同士が触れ合い掛ける瞬間眉根を引き絞り、全身の筋肉に制御を掛けて動きを止めた。理性を総動員させる。──暫しの空白の時。
 如何程(いかほど)の間そうやって固まっていたのだろうか。判らぬ。だが短くは無い時間の間其の体勢で留まっていた。が、不意に貌をずらして額に唇を押し当てると直ぐ様身を引いた。そして急いで其の場を離れた。余韻も何も残らぬ程束の間の逢瀬。逢瀬とも云えぬ程一方通行な此の感情。だが、煽られた熱はそう簡単に収まりそうには無い。

 また今夜も眠れぬ、と、喉を晒して空を仰いだ。己の身体を両腕で抱き締める。全身が酷く冷えていた。──雨はまだ、降り続けている。
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