「枳(からたち)」……SSブログサイト。(銀魂中心。他雑多。只今ヘタリアとかBASARAとかも。)

22 夏の土方と銀時 


 意識を彼岸の彼方にまで飛ばしていた土方は。此岸の、陽炎の向こうからの声に引き戻された。


 茹だる様な此の夏の暑さ。揺らめく視界。木陰と雖(いえど)も、太陽は容赦も無い。
そんな中、黒い男が街中の公園のベンチに座っていた。
小さな公園の片隅のベンチ。木漏れ日が揺れている。春秋ならば、心地良さでまどろみも起こりそうな状況であろう。
だが今は夏だ。それも稀に見る暑さの夏だ。

噛んだ煙草は、火も点っていない。
片手に持っている飲みかけの缶珈琲は、既に温い。
脱いだ隊服の上着は、ベンチの背凭れで萎れている。
緩めたスカーフは、だらしなく首元に絡み付いている。
普段ならば親子連れの姿がちらほらと見える場所でもあるのだが、此の余りの暑さに子供の姿すら、無い。

聞こえるのは、遠くからの喧騒。頭蓋の内側で反響しそうな程の蝉の声。
土方は背凭れに凭れ掛かり目を閉じた。眼球の奥が酷く痛むので目蓋の上から手の平で揉む。…寝不足だ。

 真選組の夏は忙しい。
夏になると誰もが心躍る。莫迦もはしゃぐ。やれ夏祭りの警邏だのテロ対策の会議だのが連日だ。
土方もここ数日、まともに寝ていない。慣れた事ではあるが。

 だが忙中閑(かん)あり。忙しい時でも、僅かな暇というものはあるものだ。
事務仕事にほとほと嫌気が差していた土方は、通常警邏がてら街に出た。
そもそもは、机の前で頭を捏ね繰り回しているよりも身体を動かす方が性に合っている。

だが、外に出て直ぐ様後悔したが。
 土方には体力が、有る。根性も、有る。だからこそ己自身を過信し過ぎる事も、有る。
抜け目が無いように思えて、突っ込み所が満載。そういったところが土方が土方たる所以だ。
此の暑さと、己自身の体調への考慮が出来なかったのは土方の判り易い失態の一つであろう。

吹き出る汗に眩む視界に逆上せた頭。
土方は心底辟易し、早々にベンチの上の人となった。


目を閉じて暫し。直ぐ間近で気配がした。そして声が空から降ってきた。
「おーおーおーおー。良い御身分ですなぁ公僕さんよォ。」
「……。」
何時の間にか、己の座るベンチの背後に立つ男の気配。普段ならば、こんな距離にまで近付かれて気付かなかったとは不覚、と刹那に思い、だが此の男相手ならば仕方が無い、とも反射的に思っていただろう。悔しい事に、本当に悔しい事に、己は此の相手の事を認めているのだから。
だが今は、何故だか殆ど感情も揺れ動かずに相手の存在を受け入れていた。
きっと暑さのせいだ。

目蓋の上を覆っていた手を除けると、眩しい視界の中で小憎らしい銀の男の貌が薄らと見えた。
ニヤニヤと笑う男の口許を瞬きながら見詰め返し、言葉以上の気持ちを込めて鬱陶しそうに溜息を付いてやると、相手からも鼻を鳴らす音が聞こえた。
「なぁに、サボリ?お昼寝ですか?副長さんともあろうお方が?お役所仕事舐めてんじゃねーぞ。
チクるぞコラ。いた電すっぞコラ。」

何時もの如く絡んでくる相手。愚鈍な仕草でベンチの前に回り、隣を許す以前に勝手に座ってきた。
肩と肩がぶつかり合う。うざい。暑苦しい。
だが矢張り、何故だか云い返す気にもならずに放っておく。
きっと暑さのせいだ。

暫く、隣で常と同じく何事かくだらない事を云っていた男。
よくもまぁ、そんなにベラベラと口が回るもんだな、と感心し微かに口端を上げて笑う。
話の内容は覚えていない。蝉の声は覚えている。

 不意に二人の間に沈黙が流れた。沈黙も気にもならなかったが、気付いたら銀の男が貌を覗き込んできていた。
なので見詰め返した。
そうしたら、妙な貌をされた。元々妙な貌の野郎だが。
頬に触れられ額に手の平を滑らされても、罵倒をしようとも思わなかった。
銜えていた煙草をついっと取られても、文句を云おうとも思わなかった。
其のまま貌を寄せられ、唇と唇を合わせられても、抵抗をしようとも思わなかった。
きっと、暑さのせいだ。

 一度目の口付けは触れるだけ、そうして此方の反応を確かめつつの二度目はもう少し、深く。
甘い様な…しょっぱいような不思議な味が口内に広がる。奴の舐めている飴か何かだろうか。
茫洋とした思考は、其れでもやけに冷静で。いきなり何盛ってきてんだこの莫迦は、だとか、周囲に人影は無さそうだ、だとか、触れてくる銀の男の手のひやりとした冷たさが心地良いな、だとか思いながらもなされるがままに。
「ん……」
口蓋を舌でなぞられ、擽られ、くぐもった声が洩れる。片手に握ったままだった缶珈琲が地面へと転がりカララ、と音を立てる。
此処で奴はそろりと離れた。…口内には不思議な味が残ったままだ。奴の残していった飴の欠片か何かが舌先に触れる。だが、不快ではない。

銀の男は──銀時は、何事も無かったかの様に離れ立ち上がる。
一体何をしたかったのか。通り魔か何かかお前は。痴漢か何かかお前は。警官相手に良い度胸だなお前は。
等等。普段なら沸き起こる罵倒の数々も、口内に消える。酷く全てが如何でも良い。
そんな風情で茫洋とする土方の膝の上に、バラバラと何かが落ちてきた。個別包装されたシンプルな飴だ。

「土方君。其れ、舐めて。」

ゆるり、見上げると、笑顔の無い銀時が居た。──見た事も無い表情だ。妙な表情だ。

「其れ、塩飴だから。ちゃんと塩分と水分取って。缶珈琲とかばっか飲んでんじゃねーよ。」

見た事も無い表情のままの銀時が、己に対しては云った事も無い様な言葉を発した。
そしてボリボリと頭部を掻きながら背を向けて歩き去ろうとする。
見た事も無い表情は土方の視界から消えた。

土方は考えた。鈍い思考を巡らし到達した結論。
「……嗚呼、心配してくれてんのか。」
見た事も無い表情は奴の「不安」の表情。気がかりげな貌。そりゃぁ、見た事があるわけがない。
漸く理解出来たので、今日逢って初めて言葉を発した。そして喉奥で笑った。
銀時は背を向けたまま
「うっせぇ。其のまま干からびて死ね。」
と云い、そして立ち去った。

互いにらしくない。
きっと、全て暑さのせいだ。
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