「枳(からたち)」……SSブログサイト。(銀魂中心。他雑多。只今ヘタリアとかBASARAとかも。)

02 隊服 


 四苦八苦しながらも首に巻くらしい、白い布を締める。サラサラとした其の触り心地は気持ちが良いのだが、触り慣れない感触であるので不思議な気分だ。異国の布地なのだろうか。近藤は暫し其の布地をさわさわと触る。…触り慣れないとは思ったが、しかし何処かで以前から触れていた気がしないでもない。何だろうか?暫し考え込むが、思い出せない。まァ良いか、と直ぐ様忘れる事にする。考える事は不得手だ。
 首部分に巻き終えた其の布地に触れてみるが、少し歪んでいる気がする。直そうとするが、如何も上手くいかない。暫し奮闘するが諦めてしまう。何となく息苦しい気分がするのは、洋装に慣れていないから仕方が無いのだろう。机の上に置いていた上着を手に取り、パンパンと叩く。埃が付いている訳でも無いのだが、近藤の何となくの癖だ。そして腕を通して羽織った。上物の黒の布地は身体に未だ沿わず、少し、硬い。

 ──武装警察──「真選組」の結成が正式に決定した。武州から一念発起し道場の面子を引き連れ出てきて早数ヶ月。幕府直轄、警察庁長官である松平の働きかけのお陰で漸くだ。其の間、間借りさせて頂いていた商家の旦那にも、結成の件は先程伝えたところだ。喜んで頂けた事が素直に嬉しい。厄介で物騒な男共を居候させて貰っていた事に、感謝の念が堪えない。此れからの事は未だ判らぬが、先が見えた事により仲間の貌も明るい。
 今日は、「真選組」の制服が届いた記念すべき日だ。此れを身にまとう事により、「武士」となる。武士という名は形骸だけとなりつつある昨今だが、其れでも昔からの近藤達の夢であった。洋装姿にならなければいけないのは思っていた姿とは違ったが。だが気持ちが高揚するのは致し方ない。

 …慣れぬ服装は、矢張り息苦しい。肩が凝る。慣れぬから、だけかもしれないが、此の姿は…好きになれないかもしれない。矢張り和装の方が良いな。そう思考しつつ、少しばかり唸りながら微妙な心地で突っ立っていたら、
「如何だ?」
と声が掛かった。おう、と答えると隣の部屋に居た男が襖を開けて入ってきた。鋭い眼差し、涼やかな容姿の短髪の男だ。近藤と同様の漆黒の洋装姿だ。見慣れぬ姿である筈なのに、前々から其の姿であったかの如くしっくりきている。色男とは狡いものだ。何でも着こなしてしまう。
「トシ…似合ってんなァ。」
思わずそう呟いたら、土方は驚くでもなく、ニっと笑い掛けてきた。意地が悪い、と良く評される貌だ。近藤はそうは思わぬのだが。まるで当然だろ?とでも云うかの様な其の表情に、近藤からも笑い掛ける。
「アンタも似合ってんぜ。なんつーのかな…馬子にも衣装?」
「ひど!!」
からかう様にそう云われて、笑顔が情けない面になってしまう。
「冗談だよ。…似合ってんぜ、大将。」
「有り難うな。肩が凝って仕方無ェがよ。」
「俺もだよ。」

 土方が傍に寄ってきた。目前に立った其の男と視線を絡め合う。そして上から下までをじっくりと眺められた。其の視線が検分しているかの様に鋭い視線であったので少しばかり、居心地が悪い。何処か変だろうか?と首を傾げると、つい…と土方の手が伸びてきた。そして近藤の首元に巻き付いている白い布をシュルリ、と音を立てて抜いた。おぉ?と思っていると、
「アンタ不器用だな。ぐちゃぐちゃじゃねぇか。…巻いてやる。」
土方はそう云いながら、近藤の白い衣服(かったーしゃつ、というのだろうか?)の襟部分を綺麗に整え、二つ折りにした其の布地を首元に巻き付ける。衣擦れの音が微かに響く。小器用に巻き直してくれている、近藤よりも少しだけ低い位置にある土方の頭部を見詰める。近藤は何となく、土方の後頭部を撫でた。本当に何気無くだ。深い意味は無かった。だが土方の挙動がピタリ、と止まった。そして胡乱気に見上げてきた。
「…あんだ?」
「いや、な。」

 答える事はせずにもう一度、土方の後頭部を撫でる。撫で撫で撫で撫で。撫で撫で撫で撫で。まるで子供に対するかの様に撫で続ける。暫し眉を顰めていた土方だが、好きにさせる事にしたらしく、再度布を巻き始めた。
 サラリ、サラリ。黒い糸は指から直ぐに落ちる。掬い上げてはスルリと落ちる。武骨な近藤の指、ささくれ立った其の指先に微かに引っかかりもしたが、其れでもスルリ、と滑り落ちた。近藤の固い髪質とは異なる、艶やかな黒髪だ。さらりとした其の触り心地が昔から好きだった。だが。今は少しばかり物足りない。もっと触れたいと思っても直ぐに滑り落ちてしまう。微かに溜息を吐く。
「なーんか勿体無ェよなァ…。」
お前の長い髪。
そう云うと漸く合点が付いたのか、近藤の胸元で嗚呼、と土方が言葉を発した。

 真選組に支給された隊服が洋装だと判った途端、土方はばっさりと長髪を切った。未練も何も無いらしい。元より伸ばしている事に意味は無かったらしいが、其の思い切りの良さが小気味良かった。
 整った彼の顔立ちは、髪を切る事により尚際立った。決して柔和な外見であった訳では無いのだが、長髪である時期の方が柔らかい印象を受けたものだ。其れで舐められた事もあるだろう。だが今は硬質な雰囲気だ。男臭さや精悍さが増した様な気もする。近藤は、弟分の男前さに素直に感心する。
姿形が如何あれ、どちらの土方も土方ではあるが。
「アンタも切っただろ。洋装にゃ合わないし、何より短い方が楽だ。」
「そりゃそうなんだけどなぁ。」
「今更何だよ。」

 近藤の首元に布を巻き終えたらしい土方は、ちょんちょん、と近藤の襟部分を軽く引っ張り両肩をパンパンと叩いてきた。一歩後退するともう一度全身を眺めてきた。そして漸く満足したらしく、一つ頷いた。
 近藤は再度、そんな土方の髪へと手を伸ばす。そして触れる。土方はまたもや貌を顰めた。嫌がっている訳ではない様だが、常日頃は此処まで接触を図り合う仲でも無いので、土方としては居心地が悪いのだろう。だが近藤は気にしない。土方の髪に触れたままであったが、暫し後、あ、と言葉を発した。土方はジロリ、と睨み付けて来る。
「だから何だってンだよ。」
「あーあーあーあーあー。」
 先程から気に掛かっていた事柄が有った。其れが何かが漸く判った。近藤はニカっと笑う。土方の頭部をクシャクシャと撫で掻き回す。土方は流石に迷惑気だが、もうさせるがままにしておく事にしたらしい。

「お前の髪は、異国の触り心地だな。」
「…意味判んねェんだけど?」
近藤は笑いながら云ったが、土方には伝わらない。近藤の言葉は常に単刀直入で、主語述語すら確りとしている事が少ないからだ。生粋の莫迦では無いのだが、思いのままを直ぐに言葉に出すからだろう。此の点は沖田も似ているところだ。二人の言葉の読解に長けている土方だが、流石に此れだけでは判らぬ。

 んーんー唸りながら近藤は続ける。首元の白い布地を指差しながら。
「これこれ。此れと同じだ。」
「…?」
「サラサラして触ってると気持ちが良い。俺が好きな触り心地だ。」
「…そうか?」
土方は微妙な貌付きになった。嬉しい様な、気恥ずかしい様な、そんな表情だ。近藤は再度、クシャクシャクシャクシャと土方の髪を掻き乱す。近藤の手指を擽る心地良い感触。流石に土方にペシっと手を叩かれ諌められたが。だが其のまま頭部に手を置いたまま、土方に話し掛けた。

「俺ァな、この格好、好きになれるか判らなかったんだよ。」
「…。」
「息苦しいし堅苦しいし動き難いし暑苦しいし重いし。」
「…まァな。」
「なんつーのかなァ…時代がそうだってのなら仕方無いが…思っていた侍の姿とは違ったからな。」
「…そうだな。」
「心が、魂が大事だってのは判ってるさ。けどまずは姿形から入るもんだろうしな。」
「…。」
「お上に対する不敬になるかもしれねェが…やっぱ慣れねェよなこんな姿。…あー、こんな事云ったなんて、皆には内緒だぜ?」
近藤は微かに苦笑しながらも続ける。近藤が愚痴や弱音を零すのは土方にだけだ。其れを土方も判っているので、近藤を静かに見詰める。

「けどなぁ。」
そう云って、近藤は土方の前髪を手指で掴んだ。土方は不思議気な貌付きで上目で其れを眺める。

「お前と同じ部分見付けたから、好きになれそうだわ。」
白い布地と土方の黒髪。どちらも触れていると心地が良い。

 そう云うと、ぶふっと土方が噴き出した。土方は、己の口元を手で押さえてそっぽを向いている。彼の照れ隠しの仕草だ。
「あ、アンタな……。」
「ん?」
「アンタって、単純過ぎね?」
「褒め言葉か?褒め言葉か?」
「褒めながらけなしてんだよ。」
「トシ、ひど!!」
そう云い合った後、二人で笑った。
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